ゼア・ウィル・ビー・ブラッド - 岡本太陽

ダニエル・デイ=ルイス主演による映画史に残る恐るべき芸術作品(99点)

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

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 1996年に『ハード・エイト』で映画監督デビューしたポール・トーマス・アンダーソン。マーク・ウォルバーグ主演の『ブギーナイツ』が大ヒット、『マグノリア』をベルリン国際映画祭金熊賞受賞に導き、『パンチドランク・ラブ』ではカンヌ国際映画祭監督賞を受賞している。2002年公開の『パンチドランク・ラブ』以降は映画を発表していなかったが、2007年12月28日に彼の待望の第5作目の映画『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド(原題:There Will Be Blood)』が公開された。ダニエル・デイ=ルイス主演で描く骨太の恐るべき作品である。

 この物語は石油源を掘り当てたダニエル・プレーンビューの生きた時間を描く叙事詩である。ダニエル・プレーンビューというあるミネソタの元銀鉱労働者が、運良く石油王になるが、ある日ポール・サンデー(ポール・ダノ)という若者がダニエルの前に現れる。ダニエルにカリフォルニアのリトル・ボストンという町にある、彼の家族が持つ農場の地面から石油が染み出ている事を告げる。その情報に確信はないが、より大きな財産を手に入れる為に、ダニエルは拾い子で血のつながらない息子H.W.と共に、そのリトル・ボストンと呼ばれる町へ旅立つ。その町では、ポール・サンデーの双子の兄弟のイーライがカリスマ牧師を務めており、彼による説教が人々の間で人気を博していた。その後、ダニエルとH.W.はその後この町で石油を掘り当てるのだが…。

 本作『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』はアメリカ合衆国の小説家アプトン・シンクレアの『OIL!』が原作となっている。開拓がどんどん進んでいき、石油発掘が一大ブームだった1910年代から1920年代までを主に描く本作では、貧と富を経験したシンクレアならではの視線がこの『OIL!』にも反映されている。その他の代表作にはアメリカ精肉産業の実態を暴いた『ジャングル』等がある。このポール・トーマス・アンダーソンが監督した『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』は既に多くの賞を獲得しており、オスカー前哨戦の中でもかなり重要視されている全米批評家協会賞でも、作品賞、監督賞、主演男優賞、撮影賞を受賞している。アカデミー賞では『ノーカントリー』と勝敗を分けそうな『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』である。

 近日発表になる、ゴールデン・グローブ賞にもこの作品はノミネートされているのだが、主演男優賞にノミネートされているダニエル・デイ=ルイスには特に注目が集まる。『マイ・レフトフット』でアカデミー主演男優賞を獲得した彼は代表作に『父の祈りを』や『ギャング・オブ・ニューヨーク』等があるが、この『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』でのダニエル・プレーンビュー役は彼の俳優としてのキャリアの中で最高の演技と専らの評判である。その評判通り、彼の時々分裂気味になる役の演技は狂気である。

 この物語で描かれている事は築き上げたものの腐敗だ。ダニエルは富を得るが、聖書にも書かれている7つの大罪の強欲と嫉妬により自己破滅に陥る。石油=金のようなもので、それには常に希望、野心、嘘がつきまとう。この映画をしばらく観ていると、石油が悪魔の血に見えてくるし、油田から燃え盛る炎は地獄から吹き出る炎にも見える。

 ダニエルの息子H.W.は彼が10歳やそこらのときには既にダニエルの良きビジネスパートナーとなっていた。ダニエルはかわいらしい顔をした彼を利用していたのだ。血のつながりもなく、H.W.が拾い子であることも告げていないので、石油から得た財産は全てダニエル自身のものだ。ダニエルはそんな事ができる男なのだ。時々彼が人間のクズに見えるが、同時に彼にカリスマ性を見る事ができるのが恐ろしい。わたしたちは彼が怪物である事を自然と悟るだろう。

 ポール・トーマス・アンダーソンにとってこの『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』は監督第5作目。そして第5作目にして既に映画史に残る名作を作ってしまった。映像の美しさは『ノーカントリー』や『ジェシー・ジェームズの暗殺』に匹敵する。荒れた土地に炎が吹き上がるシーンは美しいだけではなく圧巻。また、音楽も非常に興味深い。まるでカルト・ホラーの様な音楽が使用されている。それが非常に独創的でダニエルの狂気に満ちた人生を彩るに相応しいのだ。上映時間は2時間40分と長めであるが、その長さを感じさせないのはダニエル・デイ=ルイスの素晴らしい演技やポール・トーマス・アンダーソンの監督としての妙技に起因する。物語の中で、ダニエル・プレーンビューがイーライに洗礼を受けるシーンがあるが、そこはまるでコメディ。劇場は爆笑に包まれる。狂ったストーリーの中にその様な小技を入れ込む監督の演出に平伏す。

 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の中で、映像や音楽そしてダニエル・プレーンビューという男が人間の意識に既存するものを刺激する。人間の腐敗という今や普遍的なテーマを原子レベルから感じることが出来るだろう。この完璧な芸術作品は劇場で観るべし。

岡本太陽

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