◆親父譲りの悪趣味らしさがしっかりと味わえる(65点)
連続猟奇殺人事件が起き、ボビー、ステファニー、ジャックという事件の関係者と思われる3人を、FBI捜査官のエリザベスとサムが尋問する。別々の部屋でカメラで監視された被疑者たちの証言から、奇妙な共通点に気付いていく。
冒頭の覆面を被った変質者による惨殺と、3人が遭遇した事件は一見別モノのようであるが、サムの巧みな誘導で記憶が呼び起こされていくうちに彼らが重大な目撃をしていた事態が明らかになっていく。このあたりはFBIの高度なプロファイリングと尋問技術による神経戦で、特に己が悪徳警官であることを認めざるを得ない状況に追い込まれていくジャックの心理状態が繊細に描かれる。一方恋人を殺されたボビーはドラッグ中毒を見抜かれ、サムに供述の信ぴょう性を疑われる。両親と兄が目の前で殺された幼いステファニーのみが事実を正確に把握していて、真実に一番近い存在となっていく。
やがて、3人が関わった事件の全容が詳らかになっていくが、まさに不条理ともいえるその展開に唖然となる。突然の死と必然の死、なぜ犯人は全員殺さず3人を生かしたのか。さらに犯人が正体をあらわす瞬間も、何の伏線もなく唐突に訪れる。そして警察署にいた大人は全員殺されてしまうこじつけのような強引な結末。監督のジェニファー・リンチはデヴィッド・リンチの娘だそうだが、せっかく人間の深層心理を鋭くえぐり出す演出力を持っているのだから、父親の悪いところをマネをするのはやめたほうがいい。
(佐々木貴之)