キングダム/見えざる敵 - 前田有一

気軽な大作映画の中に真実をこめた必見作(75点)

 中東において、米国のきわめて重要なパートナーのひとつに、サウジアラビアという国がある。なぜ短期間で占領が終わったイラクがいまだにグダグダしているのかなど、この地域での米国の不可解な政策行動を説明するために、絶対に欠かせない存在であるものの、これまでこの国を扱ったアメリカ映画はあまりに少なすぎた。

 そんな中『キングダム/見えざる敵』は、本格的な軍事アクションの形で中東情勢の本質をさりげなく教えてくれる、良質な娯楽映画である。ちなみに今ハリウッドは中東ものが熱く、同様の作品が今後何本も企画されているというから楽しみだ。

 サウジアラビアで、外国人居住区を狙った自爆テロが発生、アメリカ人にも膨大な死傷者が出た。FBI捜査官のフルーリー(ジェイミー・フォックス)は、首謀者をアルカーイダの幹部アブ・ハムザと推定、現地入りを要望するが、政治的理由により却下される。しかし彼は、ワシントンポストの記者を利用して半ば強引に入国。爆発物や法医学のエキスパートなど精鋭3名を引きつれ、5日間のみだが現地捜査の許可を得るのだった。

 ハリウッド映画は、ときにハッとするような政治的真実を映画に織り込むことがある。その点において、この映画で絶対に見逃してはいけない場面の一つは、上記あらすじにある「主人公たちがワシントンポストの記者を利用して入国」するくだりである。ここで彼らは、駐米サウジ大使に対し、「お前の国の奴がテロリストに資金を出してることをバラすぞ」と脅して入国許可を得る。ここがポイントだ。

 これぞまさに「あまり大っぴらに言えない真実」の一つだろう。じっさいサウジアラビアはイラクのテロリストに背後から膨大な資金を供給しており、それが現在あの国の治安を悪化させている最大の原因といわれている。ところが劇中のFBI同様、そんなことは米国側だって百も承知。あえて見て見ぬふりをしながら、わざと苦戦しているというわけだ。

 なぜそんな出来レースのような事をやっているのかといえば、イラクが混乱している方が両国にとって国益にかなうからに他ならない。たとえば米国にとっては、サブプライムローン問題など国内経済に弱点をかかえる今、イラクがすんなり民主化して日本など他の参戦国からイラク戦争後の利益分担を要求されたらたまったものではない。さらにいずれ大本命の敵国イランと戦うために、気候的に特殊なこの地域での部隊・兵器運用の実戦経験を軍に積ませることは軍事戦術上、絶対に欠かせない。

 一方サウジにとっては、イスラム圏でかつ絶対君主制という、本来米国とはまったく相容れない自国の体制を保障してもらえる現状は、周辺にもっと危険な大国(イラク、イラン)があるからであり、そこが民主化して平和になってしまっては具合がよろしくない。まして隣国イラクが民主的に繁栄するようなことになっては、いつ国内でクーデターなどが起き、体制崩壊になるかわからない。国内の富を王家がすべて独占している現状に、国民は常に不満を抱えているのだ。(その独り占めぶりがいかに無茶苦茶かも、この映画はある王子の登場シーンにおいてさりげなく見せているのでお見逃しなく)

 このように、現実の米=サウジ間の微妙な関係(決して強固な同盟ではなく、たまたま今だけ互いを利用しているにすぎない)をこの映画はしっかりと描いており、大いに勉強になる。しかもそれを堅苦しい説明口調にすることなく、話を盛り上げるサスペンス要素として同時利用している。社会派娯楽映画のお手本のようなつくりといえる。

 こうした作品は、予備知識ゼロには「中途半端なドンパチ映画」にしか見えないと思うが、この記事を読んだ方はぜひ行間の意味を意識しながら見てほしい。

 映画としても、監督の性格かずいぶんと意地悪な内容で、ひねりを求める観客を満足させる。といってもコチラもまた一見わかりにくいので多少の解説をしよう。

 たとえば終盤、主人公が友人の最期に語りかけるセリフに注目。それは一見、ちょっぴり感動的かつヒロイックなものだが、よくよく考えてみると彼がやったことはそのセリフとは真逆であったことがわかる。しかし、この主人公にはこの言葉くらいしか慰めが思いつかないのだ。本来、死にゆく仲間も観客も、一緒に溜飲を下げるセリフであるはずなのに、実際には正反対の意味。これを意地悪といわずになんというか。この場面での主人公の姿は、悲しいを通り過ぎて哀れでさえある。

 その他、戦闘中に女が見せる「善行」をあざ笑うかのような真相や、大いに考えさせられるラストシーンなど、この映画はなかなか奥が深い。

 FBIたちが銃弾をかいくぐる特殊能力を持っているように見えるとか、まあ色々とアラはあるものの、そんな事は上記のような魅力と比べたら些細な事に過ぎない。中東問題に興味がある人は必見の、優れた作品だと私は保証する。

前田有一

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