◆思わせぶりな秘密を担保にした展開は鼻持ちならない(55点)
沖縄の離島で雑貨店を営みながら愛犬のカフーと暮らす明青(玉山鉄二)。ある日、彼のもとに1通の手紙が送られてきた。そこには「絵馬の言葉が本当なら、私をお嫁さんにして下さい」と書かれていた。しばらくすると、明青のもとに幸(マイコ)という美しい女性が現れ……。
南国、沖縄の小さな島を舞台にしたラブストーリー。引っ込み思案のイケメン明青と、清楚な見かけとは裏腹におてんばな幸。対照的なふたりの不思議な出会いから始まるのは、急がず慌てずが生活信条(?)の沖縄時間な物語。何気ない日常をすごすなかで、ふたりが自然に距離を縮めていくプロセスがすがすがしい。
幸が突然やって来たときの明青のドタバタぶりが愉快だ。幸とのぎこちないやりとりは、彼の内気な性格と女っ気のない生活ぶりを容易に想像させる。また、明青に幸との関係をせっつく「おばあ」のキャラクターも魅力的。日本語字幕をつけるほど濃厚な彼女の方言が、この島が限りなく日本の端にあることを実感させる。
劇中、生活を守るために島は変化を迫られるが、明青はその変化を受け入れようとしない(受け入れられない?)。島が必要とする「変化」と、明青が守ろうとする「思い」。映画はその葛藤を映し出す。それは、どちらが正しい正しくないではなく、こんな離島にあっても人間は常に「変化」の波にさらされる生き物だという証左のようなものだ。
八百万の神がそこら中にいそうな離島だけに、絵馬にまつわるおとぎ話的なストーリーは比較的受け入れやすいが、幸が最後まで秘密を隠し続けた動機のあいまいさや、明青と母のつながりの大味さがウイークポイント。クライマックスに用意されるある"つまらない勘違い"のくだりに至っては、お安いドラマを見させられているかのよう。素朴なふたりがのんびり風土で育む愛を、わざわざドラマチックな荒波に放り込む必要があったのだろうか。
思わせぶりな秘密を担保にした展開は鼻持ちならないが、南の島ならではの素朴さや優しさがにじみ出る印象的なシーンも少なくない。小さなエピソードを最後までムリなく積み重ねてくれていたら、もう少し心に染みる作品になった気がする。
(山口拓朗)