アリス・イン・ワンダーランド - 前田有一

◆決して悪い作品ではないが(30点)

 『アリス・イン・ワンダーランド』は、大ヒットを宿命として生まれてきた。なんといっても240億円をつぎ込んだ本年度を代表するディズニーの3D超大作。間違ってもコケるわけにはいかない。

 その気迫には他を圧する迫力があり、日本でもライバルのはずの「アバター」が早々にDVDを発売。3D上映設備のある劇場は譲りますよとばかりに、直接対決から降りてしまった。主演のジョニー・デップは日本の女性にも大人気だから、アメリカ市場での成功がこの国でも再現される事になるだろう。

 19歳になったアリス(ミア・ワシコウスカ)は自分の婚約パーティー中、いつか見た白ウサギを発見する。反射的に追いかけていくと、これまたいつかのように再び縦穴に落ち、不思議の国へと到着。そこで出会ったマッドハッター(ジョニー・デップ)ら不思議の国の住民の多くは、なんだかアリスを待ちこがれていた様子だが……。

 アバターにせよこのアリスにせよ、最新デジタル3D映画ということで、みな稀有なる映像体験を期待して映画館にやってくる。そして大抵は「映像だけは凄いね」と、一応「稀有なる」体験とやらをしてお帰りになる。つまり、3Dのブロックバスターにしては、どちらもアクが強すぎる。

 『アリス・イン・ワンダーランド』については、合わない客層ははっきりしている。万人向けのアドベンチャー映画を求める人、ティム・バートンの映画を見たことがない人、見たことがあっても彼が一貫して作中で描いているモチーフを知らない人、英語がさっぱりわからない人、のおおむね4種類だ。

 だがせっかくなので、その4種類の方でも楽しめるよう、多少のアドバイスを以下に書いておこう。

 まず英語について。ルイス・キャロルの原作の英文は、翻訳者泣かせで知られる言葉遊びの宝庫。映画版も(日本語字幕も)、そのおかしさをできる限り反映させようと作ってある。だが限られた文字数では当然不十分で、事情をしらぬ人の目には意味不明なシークエンスと写るだけ。まあ、こればかりは仕方がないので華麗にスルーしよう。どうせただの遊びだ。

 次にティム・バートン監督について。もともとティム・バートンは、変わり者というか異形なるものに深い愛着を抱き、肯定するテーマを描く監督である。

 そのルールを念頭に本作を見れば、成長したアリスがまさにその異形のものになってしまっているショッキングな冒頭にも納得がいくはずだ。彼女は幼い頃の冒険体験のせいで現実社会になじめず、まるで変人寸前なのである。

 じつはこの映画では、不思議の国についてティム・バートンはあるとんでもない解釈を行っているが、これでその理由もすんなりわかるはず。アリスがそこにいって最後どうなるか。その「変化」のために、この解釈が必要だったのだ。この作品のアリスこそ、監督ティム・バートンが長年愛してきた「異形」の頂点であろう。

 今、世界の「異形」となってしまったアメリカが自信を取り戻すべく、自己肯定するような作品が次々とメジャー作品の形で現れている。

 ディズニーが社運をかけた『アリス・イン・ワンダーランド』も、当然そのひとつ……というより、まさにその最たるものである。こうした作品に、大コケは許されない。『アリス・イン・ワンダーランド』はこの時代を代表するアメリカ映画であり、同時にティム・バートン自身が長年のテーマに一つの区切りをつけた記念碑的作品といえる。

 じつに……じつに興味深い映画であるが、しかし、まるで面白くないのも事実。家族で楽しもうというお父さんに、積極的にすすめる気になれないのもまた、事実なのである。

前田有一

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