アメリカン・ギャングスター - 岡本太陽

リドリー・スコット最新作にして傑作(85点)

 フランク・ルーカス。1930年アメリカはノースカロライナ州で生まれた彼は、1960年代後半から1970年代前半にかけてニューヨークにあるハーレム地区で麻薬のディーラーとして、また犯罪組織のボスとして君臨していた。彼は中間業者を介せず、南アジアで直接ヘロインを買い付け、ベトナムを経由しアメリカまで密輸した。ブルーマジックと呼ばれる彼のヘロインは瞬く間に人気になり、ハーレムの116ストリートでは1日になんと100万ドル売りさばいた事もあったそうだ。まさに伝説の麻薬王である。

 そのフランク・ルーカスがハーレムで麻薬王として成り上がっていく様を描いた映画『アメリカン・ギャングスター(原題:AMERICAN GANGSTER)』がリドリー・スコット監督の手で製作された。本来は2、3年前には公開予定だった本作、監督やキャストの入れ替わり等で、やっと今秋公開に至った。

 そのリドリー・スコットだが、『エイリアン』や『ブレード・ランナー』等わたしの大好物の映画を監督している。しかしながら、ここ10年程の作品にはこれといって好きな作品はない。『アメリカン・ギャングスター』の予告編を見た時点では、いわゆるただの超大作映画に見えたので、わたしの興味は薄れていた。しかし風の噂でこの映画は良いらしいとの情報を得、観るに至った。そしたらなんとリドリー・スコットの近年の作品の中ではダントツで面白かったのである。

 キャストにはまずフランク・ルーカス役にデンゼル・ワシントンが扮する。今回は彼が『トレーニング・デイ』でアカデミー賞を獲得して以降の大本命の役ではないだろうか。しかも彼がよく演じる「いいひと」の役ではなく、『トレーニング・デイ』の様に汚れた役どころ。ドン・チードルもこの役に名前が挙がっていたそうだが、デンゼルで正解だった。

 それから麻薬犯罪に関する裏の世界に精通した刑事リッチー・ロバーツをラッセル・クロウが演じる。今回の彼の役はどうしてもフランク・ルーカス役のデンゼルに押され気味だが、刑事の傍らプライベートでも問題のある役で、なかなかリアルでおもしろいキャラクターだった。デンゼル・ワシントンとラッセル・クロウは、実際にフランク・ルーカスとリッチー・ロバーツから撮影の際にアドバイスを受けたそうだ。故に役作りに関しては徹底していると言えよう。

 その他共演者にはキューバ・グッティング Jr.、ジョシュ・ブローリン、チウェテル・エジェフォー等がいるが、特にジョシュ・ブローリンがいい味を出していた。ニューヨークの悪徳刑事トルーポ役なのだが、演技も最高で、彼の役はとにかくこの映画の中で1番の見所と言っても過言ではない。ジョシュ・ブローリンというと、わたしには『グーニーズ』のブランド役くらいしかピンと来ないが、今年はロバート・ロドリゲス監督作『グラインドハウス:プラネット・テラー』、ポール・ハギス監督作『告発のとき』、この『アメリカン・ギャングスター』、そして今週末公開のコーエン兄弟作『NO COUNTRY FOR OLD MEN』と4本もの映画に出演している。しかも監督は全員ビッグ・ネーム。約20年を経てようやく返り咲いた感がある彼である。

 1968 年ニューヨーク、ハーレム地区、フランク・ルーカスは黒人マフィアのボス、バンビー・ジョンソンの運転手として働いていた。しかし父の様に慕っていた彼が死んでしまい、ハーレムにボスがいなくなるという事態が発生した。その穴を狙うライバルも多い中フランクも自身の帝国を築こうとしていた。彼の取った戦法は自ら南アジアへ赴き、間を挟まずに直接ヘロインの製造元と交渉し、大量のヘロインをアメリカへ密輸するというもの。これが当たり、ハーレムでブルーマジックと呼ばれる100%ピュアで安価のヘロインが出回る。そしてフランクは一躍ハーレムの王に上りつめた。その頃、ニュージャージー州の刑事リッチー・ロバーツはプライベートでは、弁護士になるべく学校にも通い、妻とは離婚訴訟の最中でありながらも、麻薬捜査班のチームリーダーに任命されていた。そして彼は誰よりもいち早く無名のフランクの存在に注目し始め、フランクとリッチー、運命的な2人の出会いは刻一刻と近づくのだった…。

 今回のリドリー・スコット作品は2人の超有名俳優の共演に相応しい出来だった。ハリウッドの超大作映画でこれだけ満足度の高い映画は久しぶりだった。派手な映画というわけではないが、バトルシーンもあり、それでいてドラマという充実した作品だ。この映画は麻薬を扱っているので、時々ヘロインに冒された人々や、それにより無惨に死んでしまった人々等、麻薬によって滅びゆく人間の姿を映像で証明する。面白いだけではなく、暗い現実をわたしたちに突きつける映画である。

 フランク・ルーカスを演じたデンゼル・ワシントンだが、彼の今回の演技は本当に素晴らしい。近年『マイ・ボディガード』『インサイド・マン』等にも出演はしているものの、『トレーニング・デイ』以降の作品は全て助走、『アメリカン・ギャングスター』でのフランク役で高飛びした感が伺える。ラッセル・クロウもこの映画では素晴らしい演技を披露しているが、どちらかというと『3:10 TO YUMA』のベン・ウェイド役の方が魅力的だった。どういう訳かリッチー・ロバーツ役は太ったおっさんに見えてしまう。

 『アメリカン・ギャングスター』のストーリーはこの2人だけを描いていたとしたらきっと忘れられない様な映画にはなっていなかっただろう。やはりこの映画の中で重要だったのはジョシュ・ブローリン・ブローリン扮するニューヨークの悪徳刑事トルーポである。フランクに賄賂を要求したり、リッチーの捜査の邪魔をしたりと、彼の役がこの物語のスパイスとして働き、フランク、リッチー、トルーポ、この3人による勢力図が出来上がる。そして物語が複雑化するという結果になった。

 アメリカで1995年に公開したジョニー・デップ主演でエミール・クストリッツァが監督した『アリゾナ・ドリーム』という映画がある。この映画はまだアメリカン・ドリームを信じる人々に、もうこの時代にアメリカン・ドリームは存在しないという現実をキャラクターの夢を通して描いた作品だった。1960年代後半から70年代前半にかけて、ハーレムのカリスマとなったフランク・ルーカス。人々がまだアメリカン・ドリームを信じていた時代、そして黒人の地位がようやく向上しかけていたまさにその時、ノースカロナイナから大都会にやって来た彼が実現した事はまさにアメリカン・ドリームだったに違いない。

岡本太陽

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