◆悲惨かつ恐ろしすぎる実態の数々には酷く驚愕させられる(65点)
若いイラク戦争帰還兵の姿と、国家に従順な新兵を育成するブートキャンプにスポットを当てたドキュメンタリー作品。
藤本幸久監督は日本の報道で曝されることのなかった真実と実態に迫るべく渡米し、鋭く抉り出すことに成功した。
本作で映し出されるのは、イラク戦争帰還後にPTSDで苦しむ若い元兵士、入隊を逃れるためにドラッグに手を染めて中毒になった者、ホームレスになった元兵士、劣化ウランで被爆したことによって重病で苦しんでいる元州兵等々。悲惨かつ恐ろしすぎる実態の数々には酷く驚愕させられるばかりだ。これぞまさにアメリカ社会の病んだ一部分である。
中でも一番注目したいポイントはブートキャンプの実態だ。ブートキャンプと言えば、昨年大ブームとなったダイエットエクササイズ“ビリーズブートキャンプ”を真っ先に連想してしまう。本作で紹介される実際のブートキャンプは、若き海兵隊入隊者が必ず受ける軍事訓練であり、これが想像を絶するほどの過酷で厳しすぎる世界だ。二日間不眠不休で訓練に取り組み、教官からは大バッシングを喰らわせられるというまさに奈落の底と呼ぶに相応しいものであり、観る者に対しても厳しさと恐ろしさを実感させる。ビリーズブートキャンプのように励ましやほのかな優しさは一切ない真実のブートキャンプを観ていると、日本の若者がやるとすればすぐに逃げ出す者が続出するのではないかと思えた。
本作は、アメリカ社会の病んでしまった部分をしっかりと理解できる教材だ。
(佐々木貴之)