アナライフ - 前田有一

穴にこだわって作られた現代人の生きる姿(30点)

 広告業界や短編作品で知られる合田健二監督初の長編映画。低予算ながら、デジタルエフェクトを駆使した映像でみせる異色のファンタジードラマ。構成は、男二人女一人、それぞれを主人公とした短編が3つ続き、最後に彼らが一堂に集うまとめ的なエピローグで締めるというもの。

 3人はそれぞれ自分自身の現状を「無感覚」と表現する。つまり、アイデンティティーを見失った宙ぶらりんの状態にある若者たちだ。

 まず一人目の男、彼はその空白感を埋めるためにアナルレイプを行う。女性たちの部屋に忍び込み、犯すことで自らの存在感を再認識する。その充実感を頼りに何とか生きている。自分の手口を詳細に語る淡々とした語り口に、観客も思わず引き込まれる。挑発的な映像がついているわけではないのに、強烈にエロティックでもある。

 二人目の女は、ある連続殺人犯の犯行現場を目撃した直後、彼に犯される。ところが彼女はその行為にはまってしまい、やがて彼と同行し、同じ行為を繰り返すようになる。彼が殺害した人間の写真を取り、パソコンでエフェクトをかける行為で、自分自身の存在意義を再確認するようにもなる。一部不快な映像を含むこの第2編が、ヘアヌードなども含んで、もっとも視覚的に過激な内容になっている。

 三人目の男は、他人のごみをあさり、そのプライバシーを覗き見ることでなんとか自分自身とその生活に現実感をもたせている。ゴミに対する哲学のようなものを語る様子は滑稽でもあり、示唆に富んでもいる。やがて彼がゴミの中から見つけたものが、彼のその後の運命を決定付けるのだが……。

 それぞれの物語に共通するのは、自分自身の居所、実態感すら失った現代人たる3名が、変態行為、脱法行為のなかに自分を見出し、そして最後にはその手段すら失ってしまうということだ。しかし、それは彼らにとって癒しであり、その先にこそ本当の居場所が待っていると作品は伝えようとしている。その象徴となるものがアナルというわけで、アナライフとは穴ライフという意味でもある。

 それぞれの短編は、短いながらも遊び心あふれる映像美とブラックな笑いに満ち、観客をひきつけるに十分な魅力を持つ。人々が覗き見たい変態・異常との狭間の世界というのは、レイトショーで気楽に見るには良い内容だ。

 ただし、相当に実験的で、たいていの方には「だから何?」で終わってしまうパターンの映画であることは否めない。デジタルビデオならではのチープな映像感も気にはなる。そのせいもあってか、テーマやメッセージも薄い印象しか残らないのは残念なところ。総合的に見ればまあ、この位の満足度といったところだろう。

前田有一

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