アイ・アム・レジェンド - 福本次郎

◆打ち捨てられた自動車、道路に生い茂る植物、野生鹿の群れ。誰一人いない廃墟のニューヨークをスポーツカーで暴走する男の何も起きない日常を淡々と描き、音楽に頼らずカメラワークだけで彼の心情を描く静謐な映像は見事だ。(70点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 打ち捨てられた自動車、道路に生い茂る植物、そして野生鹿の群れ。誰一人いない廃墟のニューヨークをスポーツカーで暴走する男。決してあきらめない強い意志を持ちながら、奇跡は起きないということも分かっている。ただ、最後の生き残りとして自分の義務だけは果たそうとしている。答えないマネキンに言葉を掛け、ラジオ放送で呼びかけるが、心を通わせるのは愛犬だけ。何も起きない日常を淡々と描くことで主人公が味わう究極の孤独を強調する。音楽に頼らず、カメラワークだけで彼の心情を描く静謐な前半は見事だ。

 ウイルス感染で人類はほぼ全滅、免疫を持つ元軍医のロバートはワクチンを開発するために一人NYに残り研究を続けている。一方、生き残った感染者はゾンビ化し、ロバートに襲い掛かる。

 ゾンビたちは紫外線に弱く日中は活動できないが人間以上の身体能力を持つ。知能も退化しているがロバートに罠を仕掛ける程度の知性は残っている。しかし、人格は崩壊し、食欲を満たすためだけに活動する様は、いくら残忍な殺し方をしてもかまわないゾンビの定義に当てはまる。迫り来るゾンビたちを容赦なく撃ち殺しひき殺すシーンはお約束どおりで、ゾンビが友人知人だったり、理性の欠片が残っていたりと、ゾンビと向かい合うことでロバートの中に葛藤がうまれることはない。ロバートがエモーショナルになるのは愛犬を失ったときだけという割り切りは潔い。

 やがてロバートは彼の放送を聞いた生き残りの母子と出会い、生存者のコロニーが存在することを聞かされる。母子は自分たち生存者をノアの箱舟のように喩えるが、ロバートはウイルス禍は人間の仕業以外の何ものでもないと運命論を否定する。たとえ一人でも実験で検証しワクチンを開発しようとする徹底したプラグマティズムが行動を規定し、安易な楽観論に頼らず神や希望などという言葉を使わない理性的な振る舞いが最後に自己犠牲として昇華されるとき、ロバートは新たに世界を作る人類の伝説となりうるのだ。最後まで感情に流されない演出は大いなる余韻を残す。

福本次郎

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