ただ、君を愛してる - 前田有一

シナリオはひどいが宮崎はすばらしい(55点)

 『ただ、君を愛してる』は、社会現象にまでなった大ヒット作『NANA』の続編の主演を蹴れるほど絶好調の、宮崎あおいが主演した恋愛ドラマ。以前『恋愛寫眞』(堤幸彦監督)という映画があったが、あれを元に市川拓司(「いま、会いにゆきます」原作)が書き下ろした、『恋愛寫眞 もうひとつの物語』を映画化したものだ。

 主人公の大学生、誠人(玉木宏)は、入学式の日、妙に幼い雰囲気の同級生、静流(宮崎あおい)と出会う。社交性に乏しい誠人だったが、その子供っぽさから彼女を異性として意識せずにすんだおかげで、静流とだけは友人になれた。二人で裏の森に出かけ、誠人の趣味である撮影を楽しむ日々が続くが、学園のアイドル的存在(黒木メイサ)に片思いする誠人は、自分に思いを寄せる静流の気持ちに気づかない。

 なぜか幼い風貌(理由はちゃんとある)のヒロインと、鈍感なオトコ、そして大人びた美人でクラスの人気者という、メリハリのある三角関係を描いた恋愛ドラマ。この作品の魅力は、なによりその映像美で、構図や風景など相当こだわっているのが見て取れ、そして成功している。

 女優陣は美人揃いであるが、中でも宮崎あおいは成長前、成長後(最後まで見れば意味がわかる)を見事に演じ分け、外見だけではない女優としての力を見せつける。ちなみに東映本社に行くと、この映画の宣伝ポスターとして宮崎のドアップなセルフ写真が飾ってあるのだが、これがまたチェ・ホンマン並に引き伸ばされた巨大な写真で、否応なしに通行人の目を奪う。しかも、この写真の宮崎あおいときたら、チェ・ホンマン並にでかいくせに、やたらと可憐ではかなげで、美しいのである。映画の中でもその場面は息を呑む美しさで、いつまでも観客の心に残るだろう。

 ただし、後半のストーリーには不満も残る。詳しくは見ていただくとして、正直言って大人の観客は、そのあまりの都合のよさにあきれてしまうだろう。また、映像のすばらしさに比べ、音楽は子供向きの泣きモノ映画のそれであり、両者のバランスも良くはない。

 基本的に本作は、「泣いてくれ」という映画だが、このシナリオではとても泣けない。映画版「いま、会い」と同じくらい、ラストの泣き演出がくどすぎる。その繰り返しは、まるで亀田の効かないパンチを何発もしつこく当てられているようなものだが、本当はガツンと一発、クリーンヒットがほしい。

 この映画を見るときは、あまりお涙頂戴には期待せず、また後半の展開にはなるべく目をつぶるようにして、宮崎のすばらしい演技を味わうといい。あと少しストーリーに気を配れば良くなっただけに、惜しいところだ。

前田有一

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