すべては海になる - 渡まち子

◆豊かで複雑、閉塞的な本の世界の長所と短所を表す見事な設定(60点)

 孤独という共通の“愛読書”を持つ女性と少年の関係は、コミュニケーションそのものは希薄なのに絆を感じさせる。27歳の書店員の夏樹は、10代の頃から無謀な恋愛を繰り返したせいか、愛に対して懐疑的。今は大手出版社の営業マン・鹿島となんとなく関係を持っている。そんな夏樹が自らの体験を反映して作った書棚「愛のわからない人へ」のコーナーが評判に。ある日、万引き事件がきっかけで、本好きの高校生・光治と出会う。光治は学校でも家庭でも問題を抱えている少年だった。本を介して二人は繋がっていくが…。

 出版不況で、活字離れが叫ばれてもなお、やはり本が持つ魅力は独特だ。恋愛を「本を読んで勉強して」と言われて、そのまま鵜呑みにした結果が、ますます愛に迷う夏樹の姿。豊かで複雑、閉塞的な本の世界の長所と短所を表す見事な設定である。一方、光治にとっての読書は現実逃避に近い。本の中に回答や理想を探す二人に対し、出版社の鹿島は、売れるための本作りに徹するキャラクター。彼は彼のやり方で本を愛しているのだと思う。現実の世界では、迷うことと折り合いをつけることの両方をブレンドし、生きねばならないが、夏樹も光治も根っこの部分が頑固でピュアなだけに、迷う割合が高いのだろう。「海になる」というのは、どんな人間もいつか必ず死んで海に沈んでいくという負のイメージ。だがそれは、いずれは何もかもチャラになるということなら、焦る必要はないし、無理に答えを出す必要もないということかもしれない。人生の価値が、最後まで読んで、いや、生きてみないとわからないのは、ある種の希望だ。何しろ、本も映画も観客が求めるハッピーエンドの効能は絶大。救われた本があるように、救われた映画がある。人間にはやっぱり「物語」が必要なのである。

渡まち子

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