さまよう刃 - 福本次郎

息を押し殺した寡黙な語り口は、最愛の人を奪われた男の声にならない慟哭。感情を抑え青ざめた映像は、法と正義の狭間で揺れる刑事の苦悩。日本の歪んだ司法制度に挑むそんな主人公の姿は、「人権派弁護士」たちへの挑戦状だ。(40点)

さまよう刃

© 2009『さまよう刃』製作委員会

 息を押し殺した寡黙な語り口は、最愛の人を奪われた男の声にならない慟哭。感情を抑え青ざめた映像は、法と正義の狭間で揺れる刑事の苦悩。いくら殺人やレイプを繰り返しても「少年」というだけで極刑は望むべきもなく、「少年法」のもとに犯人のプライバシーは守られる。日本の歪んだ司法制度に真っ向から挑む主人公の姿は、そんな極悪人の人権ですら守ろうとする「人権派弁護士」たちへの挑戦状だ。しかし、映画は原作のストーリーをなぞるのみで、映画的な躍動感や喜怒哀楽に乏しく、重苦しい空気がスクリーンに蔓延する。

 中学生の一人娘を殺された長峰は、犯人の友人からのタレこみ電話で犯人のアパートに潜入、そこでレイプ現場のビデオを見つける。逆上した長峰は帰宅した犯人の1人を刺殺後、主犯格の菅野を追って軽井沢に潜伏する。

 たった一人の肉親の無残な死は長峰にとって、自分の未来を奪われたも同然。その怒りと悲しみを憎悪に変えて復讐声明の手紙を警察に送り付けるのだが、彼の行動は用意周到のようで行き当たりばったりだ。菅野が長野のペンションにいるというタレ込みと顔写真を頼りに探し回るのは、調査員でもない長峰にとってあまりにも無謀で、長峰自身が指名手配されている状況ではとても無理。そもそも、長峰に菅野たちの情報を与えるのならばなにも自宅の留守電ではなく携帯に直接連絡すればいい。タレ込んだのは菅野のパシリの少年のようだが、今時は自宅の電話より携帯番号のほうが入手しやすいのだから。

 さらに今度は川崎駅に菅野が現れると知らされた長峰は、菅野を待ち受ける刑事たちの真っただ中に姿を現す。手紙を名古屋から投函する偽装をした割には、変装もせずに猟銃を持って菅野の前に立ちはだかる唐突さ。クライマックスも野次馬に銃弾が当たる可能性が高いシチュエーションで警官は発砲しないはず。川崎駅周辺で大掛かりなロケを敢行したにもかかわらず、ありえない展開の連続にしらけっぱなしだった。映画化にあたって、沸点を超えた長峰の心情や長峰に同情し警察官の仕事に疑問を持つ織部刑事の迷いをあえて控え目に描くことで、想像力を働かせる余地を残そううとしたのだろうが、それ以前に杜撰な設定のせいで物語から興味を失ってしまった。

福本次郎

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