ごくせん THE MOVIE - 福本次郎

暑苦しいほどの熱意で自分の思いを口にするだけでなく、時に暴力に訴えてでも実行に移し大切な道徳的価値観を伝える。相手に真正面からコミュニケーションをとれば必ず理解してもらえるという前向きな姿勢が非常に新鮮だ。(50点)

ごくせん THE MOVIE

© 2009「ごくせん THE MOVIE」製作委員会

 土手を走り、歩道を走り、街中を走るヒロイン。「夕陽に向かって走るぞ」と、教育の理想をコミカルに体現する姿はまさにステレオタイプ、年寄りを敬い、友を守り、義理人情に厚く、正義を貫くことを身をもって生徒たちに教えようとする。暑苦しいほどの熱意で自分の思いを口にし、時に暴力に訴えてでも実行に移し失われつつある道徳的価値観を伝える。何より相手を信じて正直に真正面からコミュニケーションをとれば必ず理解してもらえるという前向きさが、しらけ・あきらめ・無責任が蔓延する現代おいて非常に新鮮だ。

 赤胴学院の教師・ヤンクミは新しく担任したクラスの生徒たちに手を焼く日々。ある日、卒業生の風間が覚せい剤取引の一味として警察に追われ、行方をくらます。卒業生たちとともに風間を探すうちに、ヤンクミは覚せい剤組織は有名なIT企業のカリスマ経営者が操っていることを知る。

 いきなりハイジャックで厳戒態勢の成田空港から物語が始まる。機動隊とマスコミに包囲されたなか、自動小銃を持ったテロリストと闘うヤンクミ。犯人を説得し投降させるというプロローグで、ヤンクミの「言葉が持つ力」を印象付ける。さらに生徒の一人が暴走族にリンチされている現場に単身乗り込んで、今度は抜群の格闘術で生徒を救い、大切なもの守るためには命を懸けるという「行動で示す力」をみせる。プロットは稚拙で構成も雑であるが、彼女のかたくななまでの信念を貫く力を全身で表現する仲間由紀恵の圧倒的な存在感が映画を引き締めている。

 IT経営者の集会に乗り込んだヤンクミは、男の仮面をはがすだけでなく、自分に銃を向けたこの男にまでやり直すチャンスを与えてやれという。そこに流れるのはヤンクミの他者に対する無限の思いやり。他人の人生に干渉し、正しい道に導いてやるヤンクミはもはや怖いものなし。何でもメールで用事を済まそうとし人間関係が希薄になったといわれる若者に対し、とにかく相手と直接話をする。その一貫した姿勢と説教臭さを笑い飛ばすセンスが、この作品を上質なエンタテインメントたらしめている。

福本次郎

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