麦の穂をゆらす風 - 岡本太陽

(85点)

 力強い映画が誕生した。昨年カンヌ映画祭でパルム・ドールをさらったケン・ローチ監督作『麦の穂をゆらす風』。『ケス』などの作品を世に送り出しているイギリスの監督ケン・ローチにとって、70歳にして初めてのカンヌ映画祭パルム・ドール作品となった。受賞して文句なし。

 映画に出演している理想主義者の主人公ダミアンを演じたキリアン・マーフィーは素晴らしかった。わたしは近年活躍する役者の中でちょっとクセのある役をしばしば演じる彼に非常に注目している。きっと俳優としての感度がいいのだろう、言葉や仕草と共に観ている側に微妙な温度まで伝えられる。キリアン・マーフィーが出ると、その映画は独特の雰囲気を持った作品になる。

 『麦の穂をゆらす風』の舞台はアイルランド。アイルランドのイギリスからの独立戦争から、やがて内戦へと変化していった時代を描いた作品。1920年イギリスの不正規軍ブラックアンドタンズはアイルランドに侵入し、非人道的な残虐行為を繰り返していた。そんな中、主人公ダミアンとテディ兄弟、またその仲間はイギリスの好きにはさせまいと武装蜂起する。そして戦争に巻き込まれたこの兄弟は悲しい運命を辿る事となるのである。劇中、わたしたちはたくさんのアイルランドの自然を見ることができる。美しい緑の宿る国。戦争という悲惨な状況下にありながら自然はやはり美しいままだった。自然が大きくて美しい故にこの人間の紡ぐ物語はより一層悲しみを纏う。

 時に、戦争を使った映画でありながらも、それはまるでヒーローものの作品であるかのような気分にさせられる映画がある。しかし『麦の穂をゆらす風』は、戦争は無意味で不正なものであるということをわたしたちに伝る。この映画の舞台はアイルランドだが、イラク戦争にも同じ事が言える。戦争とは公的な殺人であり、基本的に誰を殺してもかまわない。一種の病気だ。戦争は敵を作る。もし戦争がわたしたちの身近なところで起これば、わたしたちは誰かにとって敵になる。単純なことで、その状況こそがわたしたちの人間性を奪う。そして必ず誰かが悲しむ。戦争が起こるということはわたしたち自身でわたしたちが美しいと感じるものを破壊し、わたしたちの愛する人の命を奪うということと同じなのだ。

 わたしはこの作品を撮ったケン・ローチの情熱に傾倒する。

岡本太陽

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