今年のホリデーシーズンNo.1アナーキー(?)映画(70点)
公開前から非常に話題になっていたホリデーシーズンのサプライズムービーがある。その映画のタイトルは『魔法にかけられて(原題: ENCHANTED)』。この映画は、主人公のアニメのキャラクタージゼルが、エドワード王子と婚約したが、王子の母である悪い魔女の仕業でアニメの世界から現実の世界のニューヨークに飛ばされてしまい、そこで恋をしてしまうというストーリー。クラシックなディズニー映画、例えば、『白雪姫』『シンデレラ』等の要素を活かして実写で撮った様な作品だ。子供向けかと思いきや、かなり皮肉的で、大人から子供まで楽しめる作品。よってファミリー向けの様で侮りがちだが、ディズニーアニメのキャラクターの様な登場人物達が実写故に、この映画はホリデーシーズンの映画の中でも別格でクレイジーだ。
監督を務めるのはディズニー映画『ターザン』のケヴィン・リマ。『102』で実写映画監督デビューを果たした彼の今回の『魔法にかけられて』は、いわば実写とアニメの融合作品。この作品はきっとアニメ映画を制作した監督にしか作れなかった映画であろう。それだけアニメ独特のディテールにこだわっているということだ。特にアニメの世界から現実世界にやって来るジゼル役のエイミー・アダムズ、エドワード王子役のジェームズ・マースデン、魔女ナリッサ女王役のスーザン・サランドンの顔の表情にかなり気を使っている。現実世界にやって来てからは人間が役を演じるが、あくまでもアニメの世界から来たという設定の為、アニメのキャラクター風に表情を相当オーバーにしている。そういうディテールもこの映画の見どころの1つだ。
魔法の王国で運命の人を待ちこがれているジゼルは、ある日トロルに襲われてしまう。しかし白馬に乗ったエドワード王子に間一髪のところを救われ、彼らは恋におち、次の日に結婚することを決めた。しかしその事を快く思わないエドワードの母女王ナリッサは、結婚式当日、ジゼルを騙し、彼女を井戸に突き落とす。そしてそれはわたしたちの住む現実の世界への入り口だった。魔法の世界から消されたウエディングドレス姿のジゼルが辿り着いた場所はマンハッタンのタイムズスクエア。劇的な環境の変化に戸惑い、町を彷徨っていると、ひょんな事からロバート・フィリップ(パトリック・デンプシー)という男に出会う。ロバートにはアンジー(サマンサ・アイヴァーズ)という娘がおり、ナンシー(イディナ・メンゼル)というガールフレンドもいたが、彼のお人好しが災し、ジゼルとの奇妙な共同生活が始まる…。
クラシックなアニメの世界から始まるこのストーリー。そしてある瞬間から突然実写に変化する。ジゼルを探しにエドワード王子もニューヨークにやって来るのだが、彼らはアニメの世界からやって来たため、ヘンテコな服装だわ、おかしなことを口にするわ、突然歌いだすわで、観客を爆笑の渦に巻き込む。乗りが80年代初期に制作されたファミリー向けの映画の雰囲気で、わたしは幼少期の感覚が戻った様で、この『魔法にかけられて』の狂った世界観を十分に楽しんだ。
この映画の中で特に注目すべき点はキャスティング。特にジゼルを演じるエイミー・アダムズとエドワード王子を演じるジェームズ・マースデンだ。彼らはもうアカデミー賞をあげていいのではないかと思う程弾けているし、アニメのキャラクターの雰囲気を存分に出している。そして2人とも歌がうまい。特にジェームズ・マースデンは今年公開された『ヘアスプレー』といい、格好は良いが少々風変わりな役が良く似合う。エドワード王子役は『X-メン』のサイクロップス役でブレイクした彼の第ニのブレイクとなるか。
ところで、こういった映画はキャスティングを間違うと、観客はキャラクターに苛立ち、物語に集中すらできなくなりがちなのだが、この『魔法にかけられて』に関しては、キャスティングが完璧で観客は安心して映画の世界に入り込めるだろう。エイミー・アダムズとジェームズ・マースデン、彼らの大袈裟ですっとぼけた演技のおかげで、観客も魔法にかかり、お伽話が現実になる。
『魔法にかけられて』のストーリーラインは言わば在り来たり。最後にはやっぱりハッピーエンディングが待っている。しかし中身はかなりなんでもアリな映画。神聖でクラシックなディズニー映画を、これはアナーキー映画か?と言わんばかりの弾けぶりに仕上げたこの監督は一体…。ディズニーもよくOKしたものだ。ただ1つ気になったのは女王ナリッサにもう少し捻りが欲しかったくらいだろうか。悪役には徹しているが、キャラクターの個性が平べったい。しかしながら、今年のホリデーシーズンで1番クレイジーでアナーキーな『魔法にかけられて』には未知数のサプライズがぎっしり詰め込まれている。面白いというよりはとんでもないものを観せられた気持ちにさせられたのはわたしだけだろうか…。
(岡本太陽)