◆知られざる未公開映画の世界。日本的な伝説にゾンビのテイストを加え、「ブレアウィッチ」的な手法で撮ったゾンビ・スプラッター(55点)
この映画は劇場未公開映画です。評価の基準は未公開映画に対してのものとなります。
劇場公開されず、DVDのみで発売されるような自主制作、インディペンデントの作品の中にも、意外に面白かったり、驚かされたり、呆れたり、マニア心をくすぐられたり・・・・とにかく、無視するには惜しいものがある。「B級」どころか、時には「Z級」かも知れない作品群だが、そこにも映画の楽しさは確実に存在する。そんな作品を少しでも伝えたいというのも、「映画ジャッジ!」に参加した理由の一つだ。もちろん、劇場公開作と比べ、予算も人手も時間もかけられていないので、同じように評価は出来ない。そこで、<未公開作としての評価>と明記して点数を付けることにした。「知られざる未公開映画の世界」を少しずつ紹介していきたい。
「未公開映画の世界」で最初に紹介するのはゾンビ・スプラッターの「鬼殻村」だ。監督・脚本は松村仁史、特殊メイクを「VERSUS」「地獄甲子園」の仲谷進が務めている。出演は木島さやか、みぶ真也、村上翔悟、やまおきあや、ひがきえりなど。特別ゲストとして「キカイダー01」の池田駿介も冒頭と最後だけ「怪異伝承案内人」として出てくる。
民俗学の調査チームが古くからの伝説を検証するため山に入り、伝説の祠を発見する。だが、チームの一人が突然発狂、襲い掛かってくる。襲われて殺された者はゾンビのように蘇り、さらに他の者を襲い始める。調査チームのメンバーらは帰路を見失い、ゾンビ化した死者から山中を逃げ回るが・・・・。
額に木の杭を突き刺す、スコップで胴体を切断する、斧で腕を切るなど、スプラッター場面はなかなか頑張っているが、画面がいかにもビデオ撮り。音響設計も色調もおかしい。しかし、それでも本作はぎりぎりに映画として成立していると思う。むしろ、映画として成立するか、しないか、その境界にあることで、かえって「映画」を感じさせてくれる。
実はこの作品、ビデオカメラマンが撮った映像、という「ブレアウィッチ・プロジェクト」と同様の設定をうまく使っている。カメラマンの撮影ではおかしいカットや、カメラマン自身が映っているカットもあるから、全てがPOV(ポイント・オブ・ビュー=主観カメラ)ではないのだが、冒頭、調査チームの食事会の退屈な場面で、ビデオ映像とそうでない映像を執拗に交互に見せて、「劇中のビデオカメラマンの撮った映像」と「そうでない映像」の区別をわざと曖昧にしているのである。そのアイデアが「映画」を成立させている。観客は「ビデオカメラマンの映像」ということを途中で忘れてしまうのだが、ラストの「落ち」に、再びその設定が効いてきて、脚本が意外によく出来ていることが分かる。
映画を成立させているのは設定の妙だけではない。作り手たちのホラーへの愛も感じた。祠で女が何物かにとりつかれる場面は「死霊のはらわた」と似ていて、本作はその日本版と言えなくもない。「日本版」というところがミソで、女ゾンビのメイクは野村芳太郎版「八墓村」の小川真由美や、丑の刻参りを連想させるものになっていた。ラスト、2人のゾンビが女を追って暗闇を走る場面は、立派に「絵」になっていた。
(小梶勝男)