◆ストーリーがあまりにも説得力に欠ける(25点)
映画はさながら世界一周の旅のようで開放感に溢れているが、ストーリーがあまりにも説得力に欠ける。NYでジャーナリストとして活躍するリズは、 30代半ばになって自分の人生が、望んでいるものではないことに気付く。夫との離婚、若い恋人との別れを経て、自らを探す旅に出ることを決意。イタリア、インド、インドネシアへと向かう。美食と瞑想を堪能した後、最後に訪れたバリ島で彼女の人生を大きく変える男性と出会うことになる…。
原作は女性作家エリザベス・ギルバートの自伝的小説だ。アメリカ女性は本当に“自分探し”が大好きである。だが、そもそもこのヒロインに感情移入するのが難しい。リズは、仕事も家庭もかなり恵まれていて、それゆえに虚しさに気付いてしまうのだが、バブル期を彷彿とさせるこの余裕に現代女性がはたして共感するだろうか。夫や恋人にさしたる非があるようにも思えない。何より、彼女が虚しさに気付き旅立つきっかけが、バリ島の怪しげな占いというのが失笑ものだ。リズの親友の「人生をチェックアウトすることなんてできないのよ」とのやんわりとした批判の言葉の方が、よほど説得力があるが、この忠告は彼女の耳には届かない。瞬時に外国生活になじみ、それぞれの場所で彼女を応援する素晴らしい友に恵まれるなど、展開はトントン拍子。同時代性もなく共感できない話に、ジュリア・ロバーツやハビエル・バルデムらオスカー俳優が顔をそろえていることが、いっそう虚しさを感じさせる。
きっとヒロインは思い切り食べることも自分のためだけに祈ることも、これまでの人生で経験してこなかったに違いない。だが裕福なアメリカ女性の自分探しの旅は、スピリチュアルな悟りではなく、結局は、渇望していた新しい恋に落ち着く。そこでもヒロインはいちいち自らに足枷をはめながら物事を考え、自分を解放するのに時間がかかり、やきもきさせる。そんなに難しく考えることか?! ついに素直になったリズの幸福を願いたいところだが、こういうタイプの女性は、満足するということを知らないのだ。新しい恋も長くは続かないのだろう…との思いがよぎる。リズの母が言う「あなたって子はいつも何かを探してる」との、愛情のこもったあきらめの言葉がそれを象徴していた。“足るを知るものは富む”という諺があるが、現状での精神的な充足こそ彼女が悟るべきことではなかろうか。インドとバリ島で学ぶことは、欧米人がアジアに求める安易な癒しにしか見えないが、唯一イタリアだけは習得すべきテーマが明確で普遍性がある。それは「何もしないことを楽しむ」こと。これだけは頷けた。
(渡まち子)