食べて、祈って、恋をして - 前田有一

食べて、祈って、恋をして

◆男はイラっとくる映画(30点)

 もしあなたが女性で、とても温厚な彼氏がいて、その不機嫌な顔を見たことがないとする。そして何らかの理由で、その彼氏をイラつかせたい場合は、迷わず『食べて、祈って、恋をして』と一緒に見るとよい。終わった後、ヒロインの行動をほめちぎり、共感したことを表明すれば、なおのこと効果は高い。むろん、そんなデートに何の意義があるのかは不明である。

 ニューヨークのジャーナリスト、リズ(ジュリア・ロバーツ)は、仕事も結婚生活も安定していた。だがどこか満たされぬ彼女は、唐突に離婚を決意。年下の彼氏と付き合いだすが、それでも満足は得られない。やがてリズは自分探しの旅にでる。

 年末の日比谷公園では、食うも食わずの若者たちが自動車組み立ての仕事すら切られて泣いているこのご時世。何に不満があるのやら、安定した暮らしを放り捨てて豪華世界旅行に旅立ち、悩みを解消しようとする女性の物語である。

 悩みを感じるポイントも、解消の方法も根本的にずれているような気がするが、本人は永遠にそこに気付くことはない。もっと幸せを感じる人生があるはずだ(=私クラスのオンナなら、もっと幸せを得られるはずなのだ、現実はおかしい)と強迫観念のように信じ込み、その答えを探すためイタリア、インド、インドネシア(バリ島)の3か所を回る。

 イタリアではひたすらピザを食べ、今を楽しむ。インドでは瞑想を楽しむ。バリではいい男との恋を楽しむ。悩み解消、幸せ全開と、そういうお話だ。

 こうして書くとバカみたいだが、似たような女性は星の数ほどいるはずだ。恋に破れて旅に出る、自分探しの旅に出る、頑張った自分へのご褒美……。そういう女性たちの「癒し旅行」の最大公約数的なものがこの映画のストーリーであり、行き先3か国である。

 そんなもので解消するとは、なんてお手軽な(おカネはかかるが…)悩みなんだと言いたくもなるが、一見強そうに見える女性とて、実際は折れやすくもろい。自分を肯定しつつ、新たな道を示してくれる体験を、彼女たちは常に求めている。プライドが高い割に他人の意見に影響されやすく、結果として周りを振り回す。愛すべきオンナノコ(注・30代以上)の姿がここにある。

 とはいえ、そういう主人公を演じるのは難しい。一歩間違えばスイーツ脳の愚かな女になってしまう。いかな彼女たちでも、自分がその同類と認識するのだけは許せまい。だがこの映画のジュリア・ロバーツを見ていると、どう見てもそのバカ女にしか見えない。これはまずい。

 そもそもこの女優が現在身にまとっている落ちぶれ感がよくない。「ベスト・フレンズ・ウェディング」(1997)で共演した格下(当時)のキャメロン・ディアスの輝く印象に圧倒されたのが最初の兆候で、以来ここ10年ほどぱっとしない。過去の人になりつつあるのに、相変わらず大物顔で大作にパートタイム出演しているような悪いイメージがついている。あげく、これまで相手にしたこともない日本に、今回初めてやってきて愛想を振りまくなど必死感も漂う。

 要するに、演じる役柄とリンクしすぎて生々しいのである。

 現実逃避旅行のモデルプランの映画で、リアルすぎる女優を主演にするのは適役とはいえぬのではないか。この映画の客層は、彼氏にふられたショックを癒すためバリだのバンコクだのに出かけるようなメンタリティを持つ女性たち。すなわち彼女らの共感を、この女優が集められるかどうかがすべてだが、そこが少々不安なのである。むろん、「私はジュリアさんなら無条件で共感できる!」という女性にとってはこの批評は的外れだろうから、安心してお出かけになったらいい。

 映画自体の出来は安定している。イタリアで出されるパスタを食べるシーンなどは、細かいショットを重ねた見せ場として演出されるが、本当に幸せそうにみえる。フィアットパンダや2CVなど、スローライフを象徴するような車が印象的に登場し、心地よい「非現実」の刺激を与え続ける。イタリアにしろインドネシアにしろ、ぶらりと出かけてみたいなと思わせるに十分。JTB歓喜の演出力だ。

 非常に対象がはっきりした映画なので、そういう事はあまりないだろうが、間違ってもデートに選ぶのだけはやめたほうがよいだろう。

前田有一

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