風立ちぬ - 樺沢 紫苑

「夢の実現」の先にあるもの(点数 100点)


(C)2013 二馬力・GNDHDDTK

5年ぶりの宮崎駿の監督作品を楽しみました。

リアルに描かれた美しい風景や古い町並みが積み重ねられていく。
セリフも少なく、映像で語られ、余白は観客のイマジネーションに委ねられる。

「大人のジブリ作品」と言われますが、
それはジブリ映画初のキスシーンがあるからだけではなく、
冗長に説明しない、観客の想像力を信頼した
大人に向けた映画であるという面を見逃せません。

【ネタバレ注意】

削ぎ落とされた無駄のないストーリーは、
無駄をそぎ落とし軽量化を目指した堀越二郎の飛行機作りの姿勢にも
オーバーラップします。

「空を自由に飛ぶ飛行機を作りたい」という夢を持った堀越二郎に、
「空を自由に飛ぶ映画を作りたい」という宮崎駿が、
自身を投影していることは間違いないでしょう。

『風立ちぬ』は、いろいろな見方のできる映画ですが、
私は「夢の実現」という部分にとても共感します。

少年時代から飛行機にあこがれていたし少年が、
飛行機の設計士となり、国家の大プロジェクトを任されていく。

堀越二郎は、「空を自由に飛ぶ飛行機を作りたい」
という夢を実現したはずなのに、
彼の「夢実現」の先に待っていたものは何だったのか・・・。

この映画のラストシーンに物足りなさを感じる人も多いでしょうが、
いわゆる「感動的」なラストではないものの、
私にとっては心をしびれさせ、すぐには立ち上がれないほどの
強烈なパンチ力を持ったラストに映りました。

この映画では、直接的な「戦争」のシーンというものが一つもない
にもかかわらず、「戦争」の虚無感と悲惨さを見事に描き出している
とも言えます。

「夢実現」の先にあったものは「虚無」。
これは、非常に意外な帰結であるとも言えます。

自分の作りたい作品を自由に作り、そして日本人から、
いや世界から最高のアニメ作家として称賛されている宮崎駿が、
今感じているものは、おそらく堀越二郎と同様の
「虚無感」や「不全感」ではないのか・・・と。

関東大震災、そしてそこからの復興。
「生きねば」というテーマ。それらは、
東日本大震災から復興しつつある日本人への
エールに見えるようでありながら、
堀越二郎の人生と同様に多難な未来を暗示してもいます。

安易な応援やエールとは一線を画す、
ある意味「生きる覚悟」が、「生きねば」
という表現になっているのでしょう。

ストンとあっけなく終わってしまうラストシーンは、
宮崎駿が意識的に行った確信犯的ラストであることは間違いないでしょう。

村上春樹の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の
ラストと同様に、最後に答えを書かないことで、
観客(読者)に想像させるというパターンを
使っているわけです。

そこで私たちがどこまで「想像力」を発揮できるかで、
この映画のおもしろさは大きく変わってくるでしょう。

樺沢 紫苑

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