◆林遣都と小出恵介が箱根駅伝に挑む(70点)
マラソンの中継を最初から最後まで見ていられる御仁の気が知れない。延々と人が走っているだけの2時間だ。1打席ごとの攻防があるわけでもなければ、華麗なパスやシュートが連発されるわけでもなく、フンドシ姿の巨漢が次から次へと土俵に上がるわけでもない。たまに引き離しにかかったり、追い抜いたりといった「見せ場」もないではないが、いつ起こるかわからない(ヘタするとまったく起こらないかもしれない)その5分間のために、2時間テレビの前で過ごす気にはとてもなりません。
ましてや箱根駅伝など論外。寒空の下を薄着で走る絆創膏だらけのアマチュア走者を、何が悲しくて2日間に渡って見ていなければならんのか。はっきり言って、あれは視聴者の頭がお屠蘇ボケした正月なればこそ成立する特殊なスポーツ番組であろう……と考えるご同輩には、ぜひこの映画を薦めたい。2時間13分という上映時間は1本の映画としてはやや長めだが、このほぼマラソンのゴールタイムに等しい時間を割くだけで、無名の大学陸上部がトレーニングを積み、予選会に勝ち残り、箱根駅伝の本番を完走するまでの全過程を見ることができる。練習と試合の合間には努力、根性、挫折、再起、反目、友情、情熱、ライバル心といったスポーツ映画に必須の「おかず」もたっぷりと盛りこまれており、はなはだ時間的なコストパフォーマンスがよろしい。
原作は三浦しをんの同名小説だ。寛政大学に入学したカケル(林遣都)は、4年生のハイジ(小出恵介)に半ばだまされるようにして陸上部の寮に引きこまれる。残る8人の寮生はヘビースモーカーの留年生、スポーツ推薦ではない普通の黒人留学生、マンガ狂の運動音痴など陸上部とは名ばかりの者ばかり。ところが歓迎会の夜、ハイジはなぜか自信たっぷりに「この10人で箱根駅伝を目指す」と宣言して……。
脇役陣の多彩な個性も楽しいが、何といっても本作の2本柱はカケルとハイジだ。アスリートとしての輝かしい未来をそれぞれ不祥事と故障で棒に振った2人が、好きだから走るという原点に立ち返って大目標に挑む、これは再生の物語。ストーリーの進行と共に明かされていく2人の過去からは、(現実のアマチュアスポーツ界を席巻しているであろう)勝利至上主義への批判ものぞく。林遣都が良くも悪くも一本気なカケルをナイーブに演じれば、小出恵介はハイジの器の大きさを骨太な演技で表現した。同性から見ても共に好感度大だ。
クライマックスとなる箱根駅伝のシーンは、実際には九州地方の道路で撮ったのだそうだが、本家のコースの映像が巧みに織りこまれ、まるで本当に箱根を往復したかのよう。監督・脚本の大森寿美男は区間賞争い、繰り上げスタート、体調不良といった箱根ならではのドラマを目配りよくプロットに織りこんだ。最後がアナクロなスポ根モノになってしまったのには閉口したが、まあ、あまりうるさいことを言う必要もあるまい。林遣都の美しいランニングフォームを見るためだけでも、劇場に足を運ぶ価値はある作品だから。
(町田敦夫)