題名のない子守唄 - 福本次郎

◆謎めいたヒロイン、忌まわしい記憶、そして迫り来る魔の手。ちりばめられた映像の断片を組み立てていくうちに過去が姿を現し、彼女の目的が明らかになっていく。その上質なミステリーの手法は洗練の極み、片時も目を離せない。(70点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 謎めいたヒロイン、フラッシュバックで繰り返される忌まわしい記憶、そして迫り来る魔の手。ちりばめられた映像の断片を組み立てていくうちに過去が姿を現し、彼女の目的が明らかになっていく。その上質なミステリーの手法は洗練の極み、スクリーンから片時も目を離せない。そして彼女の壮絶な体験と犯罪組織の全容が解明されたとき、映画は彼女個人の問題をはるかに凌駕し、現代社会の病巣を鋭くえぐりだす。しかし、この巧みな構成をもつ衝撃作を、B級ホラー映画のようなセンスの悪いエンニオ・モリコーネの音楽が完全にぶち壊す。ヒロインの感情を陳腐なものにし、観客をうんざりさせるような耳障りな音楽は作品の質を著しく貶めている。イタリア音楽界の巨匠もついに焼きが回ったか。

 街に流れ着いた女・イレーナは高級アパートの掃除婦の職を得る。やがて上階に住む彫金師のメイドに大ケガを負わせ、代わりにメイドになり、その家の少女・テアを手なづけていく。

 ただ愛するものに触れていたい。テアに対するイリーナの距離感は時にやさしく、時に非常に厳しい。虐げられ搾取されてきた女の唯一の生きる希望。イリーナはその目的のために手段を選ばず悪事を働く。それは周到に準備された計画でありながら、どこか短絡的だ。自分の人生は取り戻すことができなくてもせめて自分が産んだ子供の幸せは見守って生きたいという、哀しい女の心の叫びがスクリーンを引き裂くような緊張感をもたらす。

 イリーナはウクライナから売春組織に売られたあげく、恋人を殺され、さらに不妊症夫婦のための養子を産む機械のような扱いを受けていた。赤ちゃんを産んでもすぐに取り上げられるということを繰り返し、唯一行方をつかんだのがテア。しかしDNA鑑定で親子関係は否定され、殺人容疑で有罪判決を受ける。救いようのない悲しみに満ちた物語、出所したイリーナをテアが迎えにいくというラストシーンだけがわずかに光明をもたらしていた。

福本次郎

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