音符と昆布 - 小梶勝男

◆アスペルガー症候群を「お洒落」に描いた秀作。障害を扱って、これほど気持ちのいい映画は滅多にない(83点)

 自閉症の一つのタイプ、アスペルガー症候群という障害の話だが、日本映画には珍しく泣かせようとはしない。深刻ぶらず、変にドラマチックにもせず、「お洒落」に描き切っているのが素晴らしい。上映時間は1時間ちょっとと短いが、その中で、数十年間に渡る家族の歴史が凝縮して描かれた秀作だ。

 父親(宇崎竜堂)と共に古びた一軒家に住む小暮もも(市川由衣)。父が海外出張中に、姉だと名乗る女性かりん(池脇千鶴)が訪ねてくる。姉がいるとは聞かされていないももは戸惑って父にメールで知らせるが、父から一緒に住むように言われ、姉妹の共同生活が始まる。全く会話が噛み合わない理解不能なかりんは、実はアスペルガー症候群だった。そしてももには、フードコーディネーターであるにもかかわらず、嗅覚がないという障害があった。

 2人の女性の脚だけを切り取った映像。レトロな一軒家のセット。その家に干してあるカラフルな布の色。街灯のポラロイド写真を万国旗のように吊したり、生卵をアイロンで熱してオムレツにしたり。障害のせいだと思われる、かりんの変わった行動が、「お洒落」として描かれている。こういう障害の描き方もあるのだなあ、と驚いた。

 池脇千鶴がアスペルガー症候群の主人公を演じている。ちょっと太い二の腕が性格も表していて、名演だと思った。二の腕の太さに、主人公の優しさまで感じられて、見ているうちに何だか泣けてきた。

 泣き叫んだり、ヒステリックに笑ったりする奇妙さも、なぜかお洒落に見えてくる。障害のため、他人との会話が成り立たないのだが、その微妙にずれたやりとりも面白い。
妹役の市川由衣は、嗅覚のないフードコーディネーターという、いかにも作ったような設定だが、リアリティのなさも本作の場合は、お洒落に感じられるのだ。

 クライマックスに至る過程にあまりにウソくさい部分があり、ストーリーとしては破綻しているのだが、その後、池脇千鶴が青空の下を駆けめぐる場面が感動的で、気にならない。そして、1時間ちょっとでスパッと終わるのが気持ちよかった。

 本作は、「シネムジカ」という、音楽と映画のコラボレーション(プロモーションシネマ)のシリーズ。そのため、途中で音楽に合わせて画面が分割され、それまでのシーンを振り返るのだが、短い上映時間の中で、この振り返りは必要なのかと疑問に思った。音楽を聴かせるための策としてはちょっと安易な気もする。もっと効果的なコラボレーションがあるはずだ。

 しかし、深刻であるはずの障害を扱って、これほどお洒落で気持ちのいい作品は滅多にない。地味な作品だが、是非多くの人に見て欲しい。

小梶勝男

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