◆少女漫画のような微笑ましい恋愛や耽美的なボーイズ・ラブを期待する韓流ドラマファンには少々キツいだろう(55点)
高麗末期を舞台した歴史ドラマは大胆な性描写を交えて描く愛憎劇だ。中国・元の支配下にある高麗王朝。王は、陰謀が渦巻く中、日々を不安の中で過ごしていたが、幼い時から寵愛する近衛部隊長のホンニムとの愛だけが安らぎだった。女を愛せない王は、元から嫁いできた王妃との間に世継ぎを誕生させ、紛糾する後継者問題を解決するため、ホンニムに王妃の寝所の相手をさせる。王の命令は絶対とはいえ、困惑するホンニムと王妃だったが、この苦渋の選択が、危ういバランスを保つ3人の運命を狂わせていく…。
韓国映画では、愛も嫉妬も憎しみも濃厚だ。本作では、同性愛、異性愛ともにかなり大胆なベッドシーンを交えて描かれるので、少女漫画のような微笑ましい恋愛や耽美的なボーイズ・ラブを期待する韓流ドラマファンには、少々キツいだろう。王が世継ぎのために妻の王妃にホンニムとの交わりを命じ、最初はとまどった二人の間にやがて愛が生まれるという展開は、「チャタレイ夫人の恋人」と同じ。だが本作の場合、王は同性愛者で、その寵愛の対象であるホンニムを、唯一信頼できる相手として王妃の相手に選ぶという点がことを複雑にする。しかもこの王は、刺客から襲われれば真っ先に王妃をかばうなど、元出身の王妃を決して嫌いではなく、王妃も「自分は今では高麗の人間」と言い切り、王を頼りにしているのだから、ますますややこしい。ホンニムもまた幼い頃から王以外に愛と奉仕の対象を知らず、王妃への愛という予想外の感情に動揺する。このように登場人物は皆、単純に割り切れない、複雑な思いを抱えており、それが3人を袋小路のような悲劇へと向かわせてしまう。
歴史ものらしく、衣装や調度品は豪華で、歌や舞も優雅だ。また、美しさ重視のアクション、時にはむごい流血描写も含めて、韓国映画ならではのサービス精神がたっぷりつまっている。ちなみに「霜花店」とは作者不詳の高麗歌謡。映画では、サンファ(餃子のような食べ物)を売る店で繰り広げられる男女の、身分や倫理に縛られない愛の属性を、ストーリーに重ね合わせている。劇中でホンニムが食べるサンファは、美しい禁断の果実のように見えた。
(渡まち子)