闇の列車、光の旅 - 前田有一

◆至福のラストシーン(65点)

 近くに豊かな国があれば放っておいても……というより、たとえ禁止しても隣国の貧しい人々が殺到する。あらゆる豊かな国は、そうした不法移民をどう食い止めるかに日々悩まされている。「豊かな」宗主国にむりやり強制連行された、なんて主張する人もたまにはいるが、これは世界史の常識である。

 問題は、その「豊かな国」も最近は絶不調だったりする点で、『闇の列車、光の旅』の主人公が目指すアメリカの経済も最近は調子が悪い。それでもかの国の南方面には、明日をも知れぬ暮らしの人々が多数暮らしており、不法移民の流入は絶えない。

 この映画は、そうした移民たちの厳しい移動時の様子を背景に、ある少年少女の壮絶な逃亡劇を描いたサスペンスである。

 少女サイラ(パウリナ・ガイタン)は、父親と叔父から半ば強引にアメリカ移住の旅に連れ出される。父はかつて不法移民としてアメリカにわたった際、新しい家族を現地に作っており、今でも共に暮らしたいと思っていたのだ。一行は屋根の上まで乗客が満載された長距離列車で国境を目指すが、そんな貧しい人々の懐を狙った卑劣な強盗団の魔の手が迫っていた。

 サイラの物語とは別に、ひとりの少年ギャングの話も同時進行する。実在の組織をモデルにしたこのギャング団について、入団の儀式やその恐るべき規模の大きさ、ネットワークの広さなどが、サスペンスを盛り上げる小ネタとしてちりばめられる。わざわざ年少の団員に捕虜殺しの止めを刺させたり、犬に死体を食わせたりと、どこの土人国家かと見まがう無法っぷりである。

 この男女は物語の途中で偶然出会い、やがて運命を共にする。長い長いアメリカ国境超えまでの旅を、知恵と勇気をふり絞って二人きりで敢行するわけだ。組織を裏切った少年を追うのは、かつての舎弟格をふくめた仲間のギャングメンバーたち。情け容赦ない彼らの追撃がまた恐ろしい。逃げても逃げても、どこまでも大勢で追ってくる。そんな暇なら仕事でもしてろよといいたくなるしつこさだ。それが仕事か。

 ケイリー・ジョージ・フクナガ監督は体当たりタイプの性格らしく、リアリティを出すため自分も実際この移民電車の屋根に乗り込んで何日か過ごしたという。強盗シーンのリアリティがほしいなぁと思っていたら、ちょうどそこに本物の強盗が襲ってきたおかげで、本作のそれも臨場感たっぷりに仕上がった。運がいいのか悪いのかよくわからない監督である。

 ほのかな意外性を感じさせるラストシーンは、パウリナ・ガイタンのパーフェクトとしかいいようのない素晴らしい表情のおかげで、観客も一気に涙が噴出する。過酷極まりない長い旅の、そのつらさ全てがこの数秒間、一気に感動に変換されて押し寄せる。それがどんな意味の感動かはあえて記さないが、人々の満足度を大いに高める優れた締め方であった。

前田有一

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