闇の列車、光の旅 - 福本次郎

◆夢を抱いて豊かな国を目指す。命を落とす者、強制送還される者、そして幸運にも国境を越えても明るい展望があるとは限らない。社会の底辺から抜けようとする少女と組織を裏切った少年の逃避行の中で、中米の貧困の現実に迫る。(70点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 故郷にいても未来はない。正規のルートで出国する手立てもカネもない。そんな無産階級が夢を抱いて豊かな国を目指す。それは常に死の危険が伴う過酷な旅。命を落とす者、強制送還される者、そして幸運にも国境を越えられても、明るい展望があるとは限らない。映画は経済格差の底辺からなんとか這いあがろうともがく少女と、組織を裏切った少年の逃避行を通じて、中米の貧困の現実に迫る。無賃乗車で何日も過ごす彼らの忍耐の背景にある道徳心の高さは、信仰の深さからくるものなのか。

 ホンジュラスから米国に密航する父と叔父について列車の屋根に飛び乗ったサイラは、メキシコで強盗団のボスにレイプされそうになる。しかし、その一員・カスペルがボスを殺してサイラを助けたことから、カスペルがギャングに追われる身となる。

 カスペルが住むメキシコもまたまともな仕事はなく、ギャングもほとんどが10代。カスペルの親友・スマイリーはまだティーンエイジにもなっていない。あどけなさが残る子供に銃を持たせ、人に向かって引き金を引かせる。イニシエーションとはいえ、あまりにも厳しい選択だ。貧しさが犯罪を生み、犯罪が産業を衰退させて更なる治安の悪化を生むという負のスパイラル。先のことなど考えず、今だけしか見つめられない彼らの現状が切ないほどリアルに再現されている。

 不法移民同士はいざこざを起こさずむしろ協力し合い、ギリギリのところで良識を守ろうと必死にもがいている。サイラは救われた恩義からカスペルに親切に接し、父や叔父に黙ってカスペルと行動を共にする。だが彼は「死ぬのは怖くないがいつ死ぬか分からないのが困る」と、もはやまっとうな人生は望めないと諦めている。カスペルの孤独を癒すと同時に、悪党になりきれない善良な部分を見抜き、単独で逃げようとする彼に頼もしさを感じたのだろう。ふたりとも、自分の無事さえ定かでない状況で、他人を思いやる人間らしい心が残っている。殺伐とした物語の中で、そのやさしさがわずかな希望の光を放っていた。

福本次郎

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