運命のボタン - 福本次郎

◆大金を得るために他人を犠牲にした人間に試練が与えられる。無表情な視線、突然の鼻血、諜報機関の関与。追い詰められていく夫婦が体験するじわじわと真綿で首を絞められるような感覚が、思わせぶりな映像の連続で再現される。(40点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 大金を得るために他人を犠牲にした人間に試練が与えられる。良心の呵責にさいなまれ、日常が徐々に歪んでいき、わずかな刺激にも過剰反応してしまい、やがては正常な精神状態が保てなくなる。無表情な視線、突然の鼻血、諜報機関の関与。追い詰められていく主人公夫婦が体験するじわじわと真綿で首を絞められるような感覚が、思わせぶりな映像の連続で再現される。ところが、彼らに“運命のボタン”を贈った謎の男の過去が明らかになるにつれ、怖さよりもばかばかしさが先に立つ。

 ノーマとアーサー夫妻宅の玄関に置かれた箱に入っていたボタン装置。翌日、スチュワードという男が現れ、「ボタンを押すと100万ドルが手に入る代わりに見知らぬ誰かが死ぬ」と言い残す。2人は逡巡するが結局ノーマはボタンを押してしまう。

 100万ドルを受け取った瞬間から、彼らは幸せになるどころか疑心暗鬼の塊になり、スチュワードとその“従業員”に日夜監視されるようになる。どこに行っても誰かに見つめられているように感じ、秘密を探ろうとするとスチュワードから電話がかかってくる。ノーマもアーサーも何とか打開しようともがくが、得体のしれない巨大な力にとらわれてしまった恐怖に押しつぶされていく。だが、一度選択してしまった運命はもはやリセットできない、人の命がかかるような決断を軽々しく下したツケを払わされるという展開は特に目新しくはなく先が読めてしまった。まあ、こんな「笑ゥせぇるすまん」のような教訓話はどこの国にでもあるのだろうが。

 その後ノーマはスチュワードに許しを請うが、その際落雷で左半分が崩壊した彼の顔に対して、「愛を感じた」と告白する。自身もまた足指の欠損という身体的ダメージを負っているために、醜くただれている彼の顔に恐れや憐みを抱くのではなく、その苦しみを理解するのだ。そんな、本来は善良でつつましく生きているノーマやアーサーの心に潜む密かな欲望に火をつけて彼らの人生を狂わせるなど、いかに進化した文明をもつ地球外知的生命体でも許されないだろう。「他人の利益のために自己の欲望を抑制できないものは生きる資格がない」などと、スチュワードに口にする資格があるとはとても思えなかった。あと、この映画の公式サイトを見ると「100万ドル(約1億円)」と記述されているが、1976年当時1ドルは200円前後だったはずだが。。。

福本次郎

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