赤い風船 - 佐々木貴之

◆鮮やかな美しさで綴られた映像詩(100点)

 40分の短編作品『白い馬』(52)で世界的に注目を集めたアルベール・ラモリス監督の第二作目で、こちらも36分の短編作品。カンヌ国際映画祭の短編作品賞をはじめ、様々な映画賞を獲得した世界的にも名声が高い最高の名作である。そんな本作がデジタルリマスターによってより鮮明な映像へとパワーアップし、2007年に『白い馬』(53年度短編作品賞受賞)とともに再びカンヌ国際映画祭に出品された(監督週間出品として)。同じ作品が二度に渡って出品されるということは、この映画祭においても史上初の出来事だった。そして、2008年にデジタルリマスター化された両作品のリヴァイバル上映が決定し、再び名作が公のスクリーンに帰ってくることとなった。

 少年(パスカル・ラモリス)は学校へ向かう途中、街灯に引っ掛かっている赤い風船を見つけ、よじ登って手にする。少年と風船は仲良くなり、風船は少年の後をずっと付いて行く。

 監督は『白い馬』の直後に本作の製作に取り掛かり、入念な準備を整えて一年で完成させた。風船を擬人化させるというアイデアは面白いが、映像技術が発達している現在ではこのような作品を製作することは容易なことである。だが、当時でここまで巧く作り上げることができたということには、ひどく驚愕させられた。同時にいかにして演出したのかということもかなり気掛かりとなった。観ていると監督の一年間の苦労がこちらにも伝わってくるのである。

 全体的に言えば、詩情豊かに描かれ、パリの街並風景の美しさやファンタジックな要素が魅力的である。鮮やかな美しさで綴られた映像詩だと言える。また、それぞれのカットが芸術写真のような出来栄えで印象深く、これこそ本当の活動写真と呼ぶに相応しい。終盤で悪ガキたちが風船に石をぶつけたことによってしぼんでしまい、さらに悪ガキの一人が片足で踏み潰してしまう。街中の色とりどりの風船が怒って宙を舞い、少年と死んだ赤い風船がいる場所へと向かう。数々の風船が少年にまとわりつき、少年は風船と共に大空へと飛び立つ。このラストで詩的な映像美は最高潮に達すが、“友達である風船の死”というペーソスな雰囲気が織り交ぜられるが、ファンタジックなムードがこの悲しみを優しく包み込む。死んだ風船に代わって少年が天へ召されるかのような描き方はやや酷だとは思えるが、美しさと優しさに満ちたイメージが強く印象に残る。このラストシーンを観ていると監督が五年後に完成させた次回作『素晴らしい風船旅行』(61)の予兆を感じてしまう。

 本作の影響を受けた映画人は現在でも数多く存在する。中でもホウ・シャオシェン監督は、2007年に本作にオマージュを捧げた作品『ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン』を撮り、こちらも2007年度カンヌ国際映画祭に出品され、本作とともに賞賛され、話題を集めた。

 私にとっては、デジタルリマスター版が二度目の鑑賞となるのだが、二度観ても映像の美しさと優しい雰囲気に酔いしれてしまった。本作こそ何度観ても良い気分、嬉しい気持ちにさせてくれる作品の代表例だ。今回のリヴァイバル上映で是非ともこの名作を新しい世代にも知っていただききたい。同時に次の世代にも語り継いでいただきたい。36分という短時間だから、暇な方はもちろん、忙しい方にこそ観ていただきたい。

佐々木貴之

【おすすめサイト】