象の背中 - 福本次郎

◆肺ガンで余命半年と宣告されながら、タバコをやめない主人公。延命治療や手術を拒んだくせに、自分で病状をさらに悪化させる。こんなアホ男に感情移入できるわけもなく、映画はさらに安っぽいセンチメンタリズムに包まれる。(20点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 肺ガンで余命半年と宣告されながら、ためらうことなくタバコを口にくわえ火をつける主人公。そして彼の病を知っていながら注意しない家族や友人。肺ガンの原因が喫煙であることが明白なのに、どうしてタバコをやめたりやめさせたりしないのだろう。カッコつけて「死ぬまでは生きていたい」と延命治療や手術を拒んだくせに、自分の病状を自分でさらに悪化させるとは、なんという愚かさだろう。こんな男に感情移入できるわけもなく、映画はさらに安っぽいセンチメンタリズムというオブラートに包まれる。

 デベロッパーのやり手部長・藤山は、人生の期限を切られ、初恋の人やけんか別れした友人といった、過去に関わった人々を訪ねることにする。一方で家族や愛人にもガンであることを告げ、身辺を整理していく。

 限られた時間の中で何ができるのか。進行中のプロジェクトや怨みを買っていた昔の取引先きちんとけじめをつけ、家族と共に過ごす時間を増やす。その一方で愛人とも密会を続ける。初恋の人とも会え、友人とも仲直り。まあ、死ぬとわかっている藤山に対して周囲の人間が気を使って優しくするというのは理解できるが、藤山自身自分から肺ガンで死ぬことを宣言して周りの同情を引こうという魂胆がミエミエ。近々死ぬ人間にがわざわざ会いに来たら誰でも物分りのよい人になってしまうのは当然だ。しかし、この映画にはその表の顔に隠された愛憎や葛藤といった感情がまったく描かれず、登場人物たちのヘタクソな幸せ芝居が延々と続く。

 その後、藤山はホスピスに転院、そこでも妻とラブレターを交わしてあくまでいい人キャラを演じ続ける。このアホ男、この期に及んでまだタバコを吸うシーンに、早く死ねと願いたくなった。安易な企画、見え透いた設定、稚拙な構成・・・。秋元康のネームバリューに頼った商業主義丸出しの発想の粗悪な作品に踊らさられた役所広司が哀れに思えてくる。

福本次郎

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