誰がため - 福本次郎

◆小国ゆえに戦火を免れたデンマーク、誰が敵で誰が信用できるのか、抵抗組織の若者は徐々に己の任務に疑問を抱いていく。中立でもなく大規模な蜂起でもなく、中途半端なレジスタンスに終始した国民の悲哀をリアルに再現する。(70点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 小国ゆえに戦火を免れ、その被害の少なさが抵抗運動に温度差をもたらす。第二次大戦中のデンマーク、ドイツの支配を「平和的」に受け入れたおかげで国は破壊されなかったが、傷ついた民族のプライドを取り戻すために地下活動に身を投じる2人の青年。だが、ドイツ軍に対する憎悪は薄く、組織の団結は非常にもろい。裏切り、密告、二重スパイ、共産党……。誰が敵で誰が信用できるのか、疑心暗鬼の中で、彼らは徐々に己の任務に疑問を抱いていく。中立でもなく大規模な蜂起でもなく、中途半端なレジスタンスに終始した国民の悲哀をリアルに再現する。

 1944年、ドイツの影響下にあったデンマークは日に日にゲシュタポによる取り締まりが厳しくなっていた。そんな中、レジスタンス組織のベントとヨーンは独軍に協力するデンマーク人の暗殺を請け負っている。ある日、ベントはケティという女と知り合うが、彼女はゲシュタポにも通じていた。

 若いベントはターゲットには躊躇なく引き金を引くが、妻子のいるヨーンは殺し屋になりきれない。自分の有能さを示そうと命令を忠実に実行するベントに対し、ヨーンはどこか暴力を嫌っている。このヨーンの敵への腰の引けた憎しみの弱さが当時のデンマーク人の偽らざる姿だろう。ドイツ軍を追いだしたいが、あえて自分の手を血で汚したくない。さらに、明晰なドイツ軍将校との出会いと上司への疑惑が、ベントの気持ちも揺さぶり、何のために戦っているのかという彼らの苦悩が浮き彫りにされていく。

 末端の工作員であるベントとヨーンには、間違いなく「祖国のために命を張っている」という明確な正義感はあったはず。しかし、複数ある地下組織の利害や英国の思惑なども絡み、結局彼らは戦争の大波にのみ込まれ命を落とす。映画は彼らを、迷い、焦り、苦しみ、後悔し、弱音を吐き、忠誠を誓った組織に失望する、普通の人間としてとらえる。そうした感情と、容赦なく殺人を繰り返していく場面の落差が、一般市民ですら戦闘マシーンに変えていく戦争の恐ろしさを実感させてくれる。

福本次郎

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