◆ロード・ムービーというほどの開放感はないのだが、秀吉と伝助の擬似親子の関係性には好感が持てる(55点)
追いつ追われつのクライム・エンタメ・ムービーは、さえない中年男と少年の絆がジンとくる。借金にまみれ、人生にくたびれた前科者の伊達秀吉。自殺さえも失敗してしまうダメ男の前に、偶然、金持ちの子供で家出中の伝助が現われる。家出を手伝うと6歳の伝助を丸め込み、誘拐して身代金をせしめようと企むが、伝助は、暴力団・篠原組の組長の一人息子だった。ヤクザと警察の両方から追われるハメになった秀吉は、大ピンチに陥るが…。
間抜けな誘拐犯、暴力的だが根は子煩悩なヤクザの組長、不穏な動きを嗅ぎ付ける刑事たち。小さくてショボい町や、特に名所でもない田舎を逃げ回るこの物語には、ロード・ムービーというほどの開放感はないのだが、秀吉と伝助の擬似親子の関係性には好感が持てる。家族も仕事も金もなく、何をやっても上手くいかない秀吉は伝助を連れて逃げ回る過程で約束を守るという責任感に目覚めていく。一方、裕福だが父親の愛情を知らない伝助は、秀吉との何でもない日常の中で男としてのこだわりを学んでいく。つまりこれは年齢は違えど、男二人の心の成長を描く物語なのだ。ヒーロー役のイメージが強い高橋克典が、全編作業着姿でくたびれた中年男を好演。一発逆転に賭けながらスベリまくる男を演じているのが新鮮だ。身代金の受け渡しには、黒澤明の名作「天国と地獄」を彷彿とさせるシークエンスが用意され、映画ファンをニヤリとさせる。秀吉のムショ時代の恩人シゲさんの“誘拐の鉄則”を破ったそのときが、どんづまりだった秀吉の人生のリスタートだったのだろう。
(渡まち子)