親愛なるきみへ - 青森 学

言葉で想いを伝えることこそが恋愛の基本であることに気付かせてくれる作品(点数 75点)


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タイトルから察せられる通り、この映画のテーマは「手紙」である。

アメリカ軍人である主人公と大学生のヒロインが運命の出会いから数週間の蜜月を過ごすのだが、そこは成就した恋愛がどれも一様なように観ていても どこかで見たようなシーンと会話に既視感が拭えなかった。
このエピソードに時間を割いたのは、後の別れの物語に厚みを加えるための周到な序奏だっ たとはいえ、やはり私には長く感じられた。
だが、1年の任期を終えて除隊するはずだった主人公に9.11テロが二人の人生を大きく変えてしまう。

主人公は任期の延長を決意し、ネットも無く インフラの整っていない任地に派兵されて、ひたすら恋人に手紙を書くのである。
この辺りから俄然映画が面白くなった。

この映画の原作は人気作家ニコラス・スパークスの小説だが、小説家が好んで取りあげる題材に「手紙」を選ぶのは、文字で想いを伝える行為そのもの が小説家のレゾンデートル(存在意義)に非常に深いところで共鳴するからだ。
また、人間は言葉を持った時から、愛を紡ぐのは自らの語彙でその想いを伝えてきた。
その原初的な行為が手紙に集約されるのである。
持てる語彙を尽くして相手に想いを伝える。それは文学の原始的な姿であると言っても良い。

そして逆説的だが、恋愛は成就している時よりも、叶うことのなかった想いのなかにこそ本当の恋が在る。
相手への想い、希望、焦り、その問いは自分 にも向けられてより内省的な自問になる。叶わない恋は人をより深い境地へ導く。
二人はその『往復書簡』によって成長し、より深みのある大人になっ ていく過程がこの映画の見どころだ。

そして、この二人の主人公が中心となって語られる恋愛譚とは別に語られるサブストーリーがあるのだが、それは主人公と自閉症の父親とのコインにまつわる絆の話だ。
主人公は自分と父親を鋳造し損ねたコインの失敗作と人生を重ねて語っていくのだが、一方でその規格から外れたコインが高価な値段 で取引されているという事実も描かれていて、アウトサイダーとして生きる二人だが、その人生は決して無価値ではないことをさりげなく伝えていると ころがまた良い。

この父と息子のストーリーが挿入されることで、おしなべて没個性的になりがちな恋愛映画を奥行きのある物語に仕立てている。
総括 すれば、この映画は甘ったるい恋の物語ではないのだが、後の二人の運命に重みを持たせるために、書き割りのような薄っぺらな蜜月の場面に時間を割 きすぎている。そこが不満といえば不満だ。

言葉の交換こそが恋愛の原初的なスタイルであると内田樹先生はその著作で述べられていたけれど、この映画はその真理を裏打ちするように“言葉”の 大切さを教えてくれる。

青森 学

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