蜂蜜 - 福本次郎

瑞々しい自然を背景に、人間の存在そのものを浮かび上がらせるかのような詩情に満ちた映像は繊細で調和のとれた写真集を見ているよう。(点数 50点)


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木漏れ日だけが地上に落ちる緑濃い森の奥、男は高い枝に仕掛けたミ
ツバチの巣箱から蜂蜜を採ろうと木に登る。わずかな家畜と小さな畑、
そして蜂蜜の収穫、ほとんど手つかずの山野から必要なだけ分け前を
もらい質素に生きる人々の素朴なライフスタイルが美しい。物語は山
里で両親と暮らす6歳の少年を主人公に、彼と彼の家族の関係を描く。
瑞々しい自然を背景に、人間の存在そのものを浮かび上がらせるかの
ような詩情に満ちた映像は繊細で調和のとれた写真集を見ているよう。

小学校に通い始めたユシフは教科書を朗読出来なかったことを級友に
笑われ、誰とも話さなくなる。一方、ユシフの父は蜂蜜が不作のため
山のさらに先に出かけるが、そのまま連絡が途絶える。

新しい靴をくれたり滑らかな話し方を指導してくれた父をユシフは大
好きで、特に森で蜂蜜を採取する姿に憧れている。ところが、父の突
然の不在を、彼はどう受け止めたらよいかわからない。もちろん“死”
という概念はまだ理解できず、いなくなって淋しいのだが、その気持
ちをどう表現すればよいのか彼自身戸惑っている。

映画はただただそんなユシフを追う。説明的な音楽やセリフは一切な
く、やや冗漫にも思える長まわしのカットと躍動感に乏しいシーンの
連続は、まるで余白だらけの小説を読んでいるよう。しかし、あくま
でも抑制の効いた演出は、その余白を埋めるのではなく広げることで
観客のイマジネーションを刺激する。

福本次郎

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