華麗なるアリバイ - 前田有一

◆古典ミステリの映画化だが賞味期限切れ(40点)

 私のようなミステリ好きにとっては、アリバイとか殺人だのといった単語がタイトルにあるだけで興味を引かれる。しかも聞くと本作は、アガサ・クリスティー原作ものだという。クリスティー原作の映画は数は多いが、どうも凡作ばかりの気がして少々心配だが、長編「ホロー荘の殺人」をかなり大胆にアレンジしたということで、それなりの期待を抱いて試写を見た。

 フランス郊外の村で暮らす上院議員夫妻は、週末になると自分の邸宅に大勢の客を招きもてなすのが恒例。今週末も親しい友人らを招いていたが、今回はそれぞれ因縁のある人物ばかりが集まっていた。たとえば精神分析医のピエール(ランベール・ウィルソン)は、美しい妻クレール(アンヌ・コンシニ)がいながら浮気を繰り返しているのだが、現在の愛人エステル(ヴァレリア・ブルーニテデスキ)のほかにも、彼と関係を持った女が複数招かれていた。波乱を予感させる不穏な空気の中、やがてとうとう殺人事件が起きてしまう。

 なんといっても最初から最後まで名探偵ポアロが出てこないのだから、大胆な翻案といえるだろう。この、あまりに有名すぎるキャラクターがいまどきの映画に出てくれば、確かに下手すりゃ漫画的になってしまう。男女のシリアスな愛憎ドラマを描きたかった監督が嫌ったのも理解はできる。

 美しい自然の中の洋館。プールサイドで起きた殺人。容疑者に存在するアリバイ。ミステリとしては伝統的な舞台立てだが、それにしても刺激が足りない。かといってクラシカルな風格があるわけでもなく、この古典を引っ張り出して何をしたかったのかが伝わりにくい。

 もとよりトリックだのアリバイ崩しには、私でさえそうだったのだから普通の観客は興味すら持たないだろう。地味だし、そもそもそれほどの不可能性を感じさせる事件でもない。

 さらには、のっけから連発される登場人物名の羅列に、原作未読者はついていくのも大変だ。さらに、それぞれの複雑な関係性を瞬時に理解するのは、相当な困難といえる。主菜の愛憎ドロドロドラマを楽しむ前の段階で疲れてしまう。

 おまけに勘のいい人(いやそこまでよくなくとも)は、ほとんど序盤で直感的に犯人がわかってしまう。

 もう何もかもが賞味期限切れ。超ベテラン監督の、悪いところばかりが強く出てしまった印象だ。

前田有一

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