華麗なるアリバイ - 渡まち子

◆思わせぶりな登場人物を配しているだけで、人間描写に深みはない(45点)

 アガサ・クリスティーらしい華麗なムードのミステリーだが、謎解きの快感やスリルより、犯罪の裏側にある複雑な愛憎劇が主流の物語だ。フランスの小さな村にある上院議員夫妻の邸宅に9人の男女が集まる。そのパーティには、何人もの女性と関係を持つ精神分析医のピエールと、その妻クレールが招待されていた。そこにピエールの現在の愛人や過去の火遊びの相手、復縁を迫る元恋人らが加わり、パーティの場は独特の緊張感が走る。翌日、一発の銃声が。プールサイドには撃たれて血を流すピエールと放心状態のクレールの姿があった…。

 原作は「ホロー荘の殺人」だが、名探偵ポアロを排除した舞台版がベースになっている。本作は、クリスティーの原作の中でも、推理小説というより一般小説に近いもの。もともとミステリーとしての訴求力の少ない作品なのだ。ゴージャスな雰囲気の中、上流階級の男女が起こす愛憎うずまく殺人事件は、フランス映画らしくユーモア交じりのゲームのよう。そのゲームを始める仕掛け人が、暇を持て余して、きまぐれ心を起こした邸宅の主の議員夫人である。事実、彼女の思いつきから、ピエールを取り巻く複数の女たちが一堂に会してしまう。その結果が、二つの殺人というわけだ。彼女の悪びれないふわふわしたキャラがこの映画のテイストを如実に表しているようで面白い。殺人事件の謎解きはあくまでライト感覚。全員に動機があるとはいっても、殺人に手を染めるほどの強い憎しみを持つ人物は限られるし、思わせぶりな登場人物を配しているだけで、人間描写に深みはない。ラストにはちょっぴりドキドキのアクションシーンも用意されているが、それもほんの一瞬の出来ごとで、迫力は皆無だ。とはいえ、愛と嫉妬はフランス映画の欠かせない小道具。記憶に障害を抱える老婦人の、すべてを達観したたたずまいが、事件を俯瞰する神の目のように見えるのが印象的である。ミステリーとしては不満が残るので、人間ドラマとして楽しむのが正しい観賞法だろう。

渡まち子

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