荒野はつらいよ〜アリゾナより愛をこめて〜 - 青森 学

現代人の価値観を持つ主人公が生きる開拓時代の生き辛さをコミカルに描く(点数 87点)


(C)Universal Pictures

粗野な開拓時代の人間にはない繊細な現代人の感覚を持つアルバート(セス・マクファーレン)が開拓時代の人達を批判的な目線で嘆くストーリーが面白い。
西部劇を批判的によみといたパロディ仕立て。
世代間のギャップを笑うのが、バック・トゥ・ザ・フューチャーシリーズ(以下BTFと略)だったが、観客が共感しやすいために主人公はどうしても現代人の感覚を持っていなければならないという時代劇の制約を逆手にとって明示的にパロディ化したのが本作である。

本作の挿入曲もBTFを意識した曲作りになっており、本編で流れるBTFの音楽を基調としたサウンドトラックはいやがおうにもBTFの昂揚感が甦る。
セス・マクファーレンのBTF愛には歪みがない。映画の後半にセス・マクファーレンのBTF愛を裏付ける決定打が登場するのだが、それは観てのお楽しみである。
音楽を担当するのはジョエル・マクニーリイという人だが、BTFのサウンドトラックを担当したアラン・シルヴェストリの曲の特徴を巧くつかんでいる。

元々、時代劇を現代人の視点で再解釈する作品は多く、またそうでないと現代の観客から共感を得ることが出来ない。
日本の時代劇でも昔の習慣や風習を表面的に取り上げても当時の死生観などの根幹部分は現代人のそれと入れ替わったりしている。たとえば、江戸時代くらいまでは子供はちょっとした病気ですぐ死んでしまうので元服するまでの期間は人間の子というよりも神の管理下にあると考えられていた。
なので、子供が死んでも当時の親は現代人ほどのショックは受けず案外けろっとしていたのである。
多産多死の死生観と現代の死生観とでは大きな温度差がある。この『荒野はつらいよ』も当時の価値観を現代人の視点からはなっから否定するのはそれほど斬新という訳ではない。
たぶん当時の価値観で描けば先述したように現代の観客の共感は得られまい。
本作は当時の価値観を忠実に再現することが出来ない時代劇のジレンマを突いた作品であるという点は新しいといえるだろう。

『テッド』に続いて相変わらずの下ネタ満載の今作だが、セス・マクファーレンのナスティなジョークはきわどいが根底に人間愛が横溢しているので嫌味にならない。呵呵大笑してしまうユーモアである。

アルバートが抱える自分の仕事が満足に出来ないという悩みはニートや生きることへの息苦しさという現代にも通じる問題であり、主人公に共感しやすいようにちゃんとドラマが構成されているのである。
社会不適応者が実は時代の先を行っているだけなのかも知れないと暗に仄めかしている。

野卑な開拓時代の人達にうんざりする主人公だが、彼の悲嘆に同意する観客であっても現代では観客もどちらかと云うと開拓時代の人達と大差はないのかもしれない。アルバートのような人物はいつの時代でもマイノリティの側にいるからだ。
脚本を担当したセス・マクファーレンももしかしたら現代にも当てはめて脚本を書いたのかもしれない。
西部劇をコミカライズしているようで、現代批判も含まれていると思うのはちょっと勘ぐり過ぎだろうか。

『BTF』と『荒野はつらいよ』は、ストーリーは異なるが主人公の視点や価値観のギャップを笑う点では両者とも同じなのである。
セス・マクファーレンは『BTF』をよく研究していると思う。
本作は『BTF』へのオマージュと言っても過言ではないだろう。

青森 学

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