◆かつての敵を快く歓迎するという面をしっかりと描いている点が良い(95点)
2003年春、フォトジャーナリストのグレッグ・デイビスは、肝臓ガンで死去した。妻の坂田雅子は、グレッグの友人から「ガンの原因は、ベトナム戦争に出征していた頃に浴びた枯葉剤では?」と指摘された。彼女は、亡くなった夫に対する追悼の意味を込め、枯葉剤に対する疑問を追究するべくベトナムへと赴いた。
劇中では、エージェント・オレンジと呼ばれる枯葉剤による被害者の実態とこの枯葉剤がダイオキシンを含んでいることによって、人体や環境にいかに悪影響を及ぼしているのかということを克明に映し出している。特に生まれながらにして障害を持ってしまった子供たちの姿は、観ているだけでも非常に心が痛々しい。また、一部の地域では、経済的に貧しいということで病気の治療すら満足に出来ないという苦しい状況も伝える。これが痛んでしまった心にさらに重苦しさを感じさせる。目を背けたくなるようなシーンも多々観られるが、これを黙って見逃すわけにはいかない。今もなお枯葉剤の後遺症に苦しめられている人々が多く存在することを知るべきである。苦しんでいるのはベトナム人だけでなく、彼らのために何か出来ることはないのかと救いの手を差し伸べてベトナムに訪れるかつての敵アメリカ人もそうである。痛みと苦しみを伝える一方で被害者家族の愛情や心の温かさやかつての敵を快く歓迎するという面をしっかりと描いている点が良い。
坂田監督の処女作である本作は、亡き夫に対する追悼作品という独りよがりの作品として留めることなく、プロパガンダ要素を排除したメッセージ性のこもった反戦及び社会派ドキュメンタリー映画として仕上がっている。また、ダラダラと寄り道をして時間をかけることなく重要ポイントだけを的確に絞り込んで71分という短い尺でまとめ上げている点が非常に素晴らしく、無駄を感じさせない出来栄えとなっている。
タイトルは、ベトナム戦争反戦歌の代表曲「花はどこへ行った」から名付けたものであり、曲そのものもエンディング曲として使用されている。
夫の死という悲しすぎる現実を乗り越えるために本作を完成させた坂田監督の勇気を讃えると同時に労をねぎらいたい。
(佐々木貴之)