◆アカデミー賞4部門にノミネートされたピーター・ジャクソン製作のSF映画。エイリアンを「難民」と捉える視点が面白い(81点)
ある意味、「裏・アバター」と言えるかも知れない。「アバター」では人間が他の星に行って、姿形を宇宙人に変えてコミュニティーに入り込もうとする。本作では逆に、宇宙人が突然、地球にやってきて、主人公は自分の意思とは無関係に宇宙人に姿を変えられてしまうのである。どちらに真実味があるかと言えば、明らかに本作の方だろう。
ある日、南アフリカ・ヨハネスブルグの上空に巨大な宇宙船が出現する。そのまま動かなくなったため、人類が中に突入すると、エビのようなエイリアンが難民船さながらに弱ってうごめいていた。エイリアンたちは「第9地区」と呼ばれる場所に隔離され、そこはスラム化してしまう。主人公のヴィカス(シャルト・コプリー)は、エイリアンを強制立ち退きさせるために送り込まれ、ある「液体」を浴びて徐々に体がエイリアンに変わっていく。
「アバター」も本作も、クライマックスはパワードスーツ(「エイリアン2」(1986)のパワーローダー)装着でのアクションだ。何となく話は似ている。だが、テイストとしてはポール・バーホーベンの「スターシップ・トゥルーパーズ」(1997)の方だろう。リアルな残酷描写とバカバカしいお笑いとのバランスが、同じような感じなのだ。「スターシップ」では軍国主義が笑われていたが、本作では政府の移民や難民に対する隔離政策が笑いの対象となっている。
設定はとてもおかしい。エイリアンたちは何故かキャットフードに執着する。エイリアンの体を食べてパワーを取り込もうとするギャングの親玉も登場する。豚を投げて相手を倒す場面があったり、エイリアンと人間との異星人間セックスが報じられたりする。
しかし、これらのお笑い場面が笑えない。舞台が南アフリカでアパルトヘイトを思わせるし、宇宙人は明らかに現実の移民(難民)を連想させる。それらのテーマの重さが、笑おうとする顔をひきつらせる。バーホーベンのように、徹底的な描写があれば、バカバカしさが直撃してもっと笑えたかも知れない。エイリアンへの虐待や異星人間セックスなどの過剰な直接描写は、この場合必要であったように思う。ちょっと大人しい印象なのだ。
そういうことを差し引いても、とてもよく出来た作品だ。テレビニュースやビデオカメラの映像をそのまま使ったPOV(ポイント・オブ・ビュー)の手法は、リアリティーを出すのと同時に、マスメディア批判にもなっている。「クローバーフィールド」(2008)のようにすべてがPOVで撮影されているわけではなく、疑似ドキュメンタリーが自然にドキュメンタリータッチの映像に変わっていくのがいい。
エイリアンたちの居住区がバラック小屋のように薄汚いのがリアルだ。体が吹き飛んだり、手がちぎれたりといったスプラッター場面もある。パワーローダーでのアクションは、「スターシップ・トゥルーパーズ3」(2008)などとは比べものにならないくらいよく出来ている。「アバター」にも匹敵すると思う。
主人公がいわゆるヒーローでないのも良かった。エイリアンを虐待するとても嫌な奴として登場し、最後を除けばほとんど自分のことしか考えていないのだが、普通の人間とはそういうものだろう。すぐに改心してしまうのではうそ臭い。そういう意味で、ストーリーは「アバター」よりも納得出来る。
話は違うが、最近なぜ、タイトルに「9」が付く作品が多いのだろう。今春になって、「NINE」「第9地区」「9」と、ジャンルは違うが公開が3本続いている。3つの9は逆さにすると「オーメン」で広く知られるようになった悪魔の数字「666」となり、何となく不気味だ。
(小梶勝男)