◆とりあえずポップな青春映画として楽しんでほしい(50点)
主人公の自意識や妄想を過剰な演出で描く、いわゆるセカイ系青春映画は、アニメーション出身の監督のカラーが色濃く出ている。都会から小さな島に引っ越してきた女子高生のヤマコは、憧れの南先輩を遠くからみつめるだけで幸せ。告白もできずに妄想ばかりが膨らんでいたが、ずっと渡せずにいたラブレターの存在を、天敵の不破先輩に知られてしまう。おせっかいな不破先輩は無理やりヤマコの告白計画を打ち立て“夏祭りたこ焼き大作戦”がスタートすることに。地味な同級生のキクコをも巻き込んで、次第にその気になるヤマコだったが…。
唐突に始まるミュージカルシーンや、アニメを交えたファンタジックな空想世界。これらはすべて主人公の脳内ワールドだ。冒頭から多用されるこの独特の世界に引いてしまうと、最後まで取り残されることになる。映画は、恋愛に対して夢見がちであると同時に、自分が優越感を持てる相手に対して計算高い行動を取るなど、10代の少女特有の矛盾を上手くつかみながら、ヒロインのヤマコの恋をコミカルに描いていく。ヤマコは心臓が悪いというハンデがあるが、悲壮感はほとんどないものの、どこか生きることに懐疑的だ。そのため、醜いものや嫌いなものを直視しない。その目を開かせるのがクサくて、キモくて、ウザい不破先輩だ。「おまえだってクサいんだよ。生きてるんだから当たり前だ!」と言われ、必死で否定しながらも、ついに勇気を持って現実を見ることから、ヤマコの恋は思わぬ方向へ転がっていく。理想と現実の違いは、ヤマコにとって汗をかくこと。あこがれの南先輩の本当の姿を見たときよりも、ずっとできなかったでんぐり返しが成功したときの方が、生きている実感を味わえたはずだ。山本寛監督の代表作「涼宮ハルヒ」のような独特の世界観を実写で作りだすのは無理というもの。とりあえずポップな青春映画として楽しんでほしい。お笑い芸人はんにゃの金田哲が高校生役というのは違和感があるが、川島海荷の、可愛いくてズルい、美少女ぶりが面白い。
(渡まち子)