私の優しくない先輩 - 福本次郎

◆不治の病のヒロインが想いを実らせようとする手垢のついたパターンに、キャラの濃いコメディアンで意外性を出そうとする。「生きる」とは他人と関わり相手の嫌なところを受け入れ己をさらけ出すこと、という主張は素晴らしい。(40点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 憧れの男子に心ときめかせる少女が頭の中に描く世界は、3センチ浮いているような地に足のつかない感覚に満ち、そこにいる間だけは幸せな気分に浸っていられる。だが、なぜかいつも臭くてウザい先輩に付きまとわれて現実に引き戻されてしまう。映画は、不治の病に冒されたヒロインが残り短い時間の中で想いを実らせようとする手垢のついたパターンから脱却するために、キャラの濃いコメディアンを使って意外性を出そうとする。「生きる」とは他人と関わり相手の嫌なところを受け入れ己をさらけ出すこと、という主張は素晴らしいのだが、伝わってきたのは暑苦しさだけだった。

 小さな島に転校してきたヤマコは、学校でアイジ先輩とすれ違うたびに胸が高鳴っている。ある日、アイジに書いたラブレターが部活の不破先輩にみつかるが、なぜか不破は夏祭りでヤマコとアイジをキスさせるためにたこ焼き屋を出そうと提案する。

 たこ焼き特訓を続けるうちにヤマコがアイジに抱いていた理想像が崩れていく。遠くから見つめているときは完璧だったのに、実際のアイジはキクコというオタク女子に告白したり不良とタバコを吸ったり無責任だったり。一方、存在自体を否定していた不破には人を思いやる優しさが満ち溢れていることを知る。しかし、ヤマコが夢から覚め人生の真実を見出していくその過程にはまったく説得力がなく、かといってギャグ漫画のようなセンスにも欠け、川島海荷のチャーミングさと金田哲の怪演がかみ合わないまま物語は上滑りしていく。また、モノローグを多用してヤマコの気持ちを解説するが、それこそ表情やしぐさなどの演技で表現すべきだろう。

 夏祭りのたこ焼き屋は大成功、ヤマコは自分の汗の臭いに充実感を覚え、生きている実感に浸る。それは大嫌いな不破先輩が教えてくれたこと、彼女は感謝で胸をいっぱいにして息を引き取っていく。そこにセンチメンタルな湿っぽさを持ち込まなかったのには好感を持てるが、不破の過干渉の理由は明かされないまま。最大の見どころがエンドロールのミュージッククリップのような映像だったのは少し寂しかった。

福本次郎

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