私のちいさなピアニスト - 福本次郎

◆世界にあふれるあらゆる音はメロディに変換され、鍵盤に走らせる指で再現される。そんな天才的な才能を持ちながら不幸な境遇に育った少年とピアニストとしての大成しなかった女。ふたりの姿を通じて、人生の再生と希望を描く。(40点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 木を登るリス、ゆるやかに水が流れる小川、静かに羽を羽ばたかせる蝶、せわしなく首を動かすガチョウ。世界にあふれるあらゆる音はメロディに変換され、鍵盤に走らせる指で再現される。その絶対音感はさらに、一度耳にした旋律を記憶するという能力を併せ持つ。そんな天才的な才能を持ちながら不幸な境遇に育った少年と、ピアニストとしての大成しなかった女。ふたりの姿を通じて、人生の再生と希望を描く。しかし、前半のコメディタッチの演出が非常に違和感があり、映画のトーンを壊している。

 ピアニストとしての夢がかなわなかったジスは郊外の街でピアノ教室を開く。たびたびいたずらをしていく少年・キョンミンに音楽の天性があると見抜いたジスはピアノを教え、コンクールを目指す。

 自分の成功を見せびらかすような学生時代の友人とプライドで張り合うジス。そのあたりの女の意地の張り合いが非常にリアルで、ジスがキョンミンの指導に熱を上げる動機が友人を含めた世間を見返すためであることがよく分かる。コンクールで恥をかかされたジスがすぐにキョンミンを見捨てるシーンの絶望感が身にしみるように痛いが、その後ふたりの間には母子のような感情が芽生えるところが作り物めいている。

 キョンミンは保護者が死んだことから高名なピアニストの養子になることが決まる。自分が見出してピアノを叩き込んだのに、もはや自分を超えて自分の手を離れていく。才能が一番モノをいう厳しさと、稀有な才能は個人の思惑をこえて共通の財産と考える音楽の世界。キョンミンが一時的な感情に流されずピアニストの道を進んだことは正解だが、交通事故のトラウマをどうやって克服したのかを描かないと、コンクールでの失敗のエピソードが生きてこない。俳優のピアノの技量だけでなく音楽全体に対するこだわりはすばらしいが、全体の構成としては通俗の域を出ていない作品だった。

福本次郎

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