◆苦悩に満ちた現在と輝きにあふれた思い出、ヒロインの失われた記憶を修復する過程が、生きていれば人はどんな悲しみも乗り越えられることを教えてくれる。そして慰めやごまかしではなく、人を救うのは常に真実であることも。(50点)
愛する人を亡くし深い喪失感にさいなまれているヒロインが、封印していた過去と向き合ううちに希望を取り戻していく。苦悩に満ちた現在と輝きにあふれた思い出、彼女の失われた記憶を修復する過程が、生きていれば人はどんな悲しみも乗り越えられることを教えてくれる。そして慰めやごまかしではなく、人を救うのはどれほどつらくても真実であることも。お互いを必要としていたのに自分だけ命が助かった後ろめたさ、恋人が最期に伝えようとしたメッセージ、そんな物語の核心に迫りつつ心身の傷を癒していく。
バイク事故のトラウマから心療内科に通う泉美は弁護士の真希子と知り合い、彼女に事故の詳しい調査を依頼する。資料を集めると、死んだ恋人の淳一に不自然な外傷の存在が判明する。
事故の前と進行形の今、映画は二つの時制を対比させ、現実にきちんと目を向ける姿勢が未来につながると説く。事故後の泉美は「シックス・センス」のようなオチを予感させるほど存在感が希薄で、一方で淳一と過ごした日々は笑顔にあふれている。日常が突如暗転するのではない、絶望のどん底からスタートし、記憶の断片を埋め合わせながら再生するという構成がミステリアスで興味をそそる。さらに弁護士と妹の因縁を絡め、近い間柄でも相対して気持ちを伝える大切さを、切ない感情を交えて描きこむ。人生の瑕疵とケリを付けなければ人は先へは進めないことがこの弁護士姉妹のエピソードに凝縮されていた。
やがて事故現場を訪れた泉美は消えた10分を思い出す。彼女は、トラックの運転席とバイクが跡形もなくひしゃげた血まみれのコンクリートの上で淳一の切断された3本の指を必死で探していたのだ。泉美を守ろうとして身を投げだした淳一、彼の命をなんとかつなぎとめようとする泉美、恐ろしくリアルな生への執念が泉美に指を集めさせ血を止めようとする。交通事故をイメージで終わらせず、その瞬間の凄惨な肉体的痛みを見せて、泉美の心が負った痛みとして見事に昇華されていた。そして、最期までお互いを思いやるふたりの気持ちはかけがえのない美しさを放っていた。
(福本次郎)