真幸くあらば - 福本次郎

◆ブルーが強調された映像は多く語らない登場人物のように寡黙だが、ピアノの乾いた旋律が彼らの感情を饒舌に物語る。それは時に絶望、時に優しさ、最後には希望にまで昇華され、なんとしても生きたいという願いに変化する。(60点)

 ブルーが強調された冷たい映像は内面を多く語らない登場人物のように寡黙だが、ピアノの乾いた旋律が彼らの秘めた感情を饒舌に物語る。それは時に絶望、時に優しさ、最後には希望にまで昇華される。誰にも愛されず育ったゆえに、他人を愛するどころか自分すら愛せない男。彼が刑の執行直前に覚えた他人を大切に思う感覚、その想いはアクリル板に隔てられ言葉のやり取りでしか交換できない。死の恐怖を知り、生きる喜びを知る、人を愛して初めて生まれた気持ち。それはいつしか、「なぜ生まれてきたのだろう」という己の存在を否定する考えから、なんとしても生きたいという願いに変化する。

 カップル殺人事件の犯人・淳は一審で死刑判決を受けるが控訴を拒否、死刑が確定する。そんな淳の前に現れた薫は淳を心物両面からサポートした上に彼を養子にする。やがて淳は薫をいとおしく感じるようになる。

 薫は淳が殺した男の婚約者で、淳に対して婚約者の命を奪った憎しみと、婚約者の不実を暴いてくれたことに感謝する複雑な思いを抱いている。淳の最期を見届けたかったという正直さが、淳にも真実を打ち明ける機会を与える。自分で自分を苛むように人を殺した時の感触を思い出しては手のひらのスケッチを描き続ける淳は、殺される覚悟をしながら生かされている。それこそ死刑囚がかみしめなければならない、被害者に対する哀悼なのだ。

 ただ、死刑囚とボランティアの禁じられた恋というテーマは、すでに「私たちの幸せな時間」でも描かれており、心を閉ざしていた受刑者に人間らしい心を取り戻させてから刑を執行する展開も同じ。唯一、満月の夜に離れ離れのふたりがお互いの肉体を貪るように一つになる幻想的な場面がオリジナリティにあふれている。蒼い月光のもと、一糸まとわぬ姿になったふたりが相手の想念を自分の指先に託して、己が体をまさぐる。そして同時に果てることで叶えられた祈りは、命の意味が凝縮されたはかなくも美しいシーンだった。

福本次郎

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