百万円と苦虫女 - 小梶勝男

◆タナダ監督のリアリズムと蒼井優の奇跡的な美しさ(90点)

 現時点では、蒼井優にとっても、タナダユキ監督にとっても代表作だろう。基本的にはコメディーだが、かなり苦い部分もある。前向きな女性ではなく、むしろ後ろ向きな女性を主人公にしたところが実にユニークだ。そこにタナダ監督の独特のリアリズムが感じられる。

 ひょんなことから「前科者」になってしまった鈴子(蒼井優)は、実家を離れて各地を転々とすることになる。アルバイトで百万円貯まったら次の土地へ移り住むという暮らしの中で、様々な人々と出会う。やがてアルバイト先の青年(森山未來)と恋人関係になるが、お互いに今ひとつ、踏み込めない。やがて二人は思い違いから別れ話になっていく。

 主人公が旅を続ける一種のロードムービーで、海辺の町から山村、地方都市と変わる風景がとても美しい。あり得ないような出来事もいろいろと起こるのだが、主人公を見つめる視線は徹底的にリアリズム。その視線の中で、蒼井優が奇跡的なほど魅力的だ。自分探しの旅とは真反対の、自分から逃げる旅を続ける主人公が、少しずつ現実と向き合っていく様子を、少女の面影を残す儚い表情とか細い体で、切なく自然に表現している。それは美しいとしか言い様がないほどだ。

 実は細かく計算しながらも、押し付けがましくなく、自然体に見えるタナダ監督の演出も見事だった。タナダ監督にとっては初の35ミリ作品だが、技術的には「赤い文化住宅の初子」(2007)のときのような稚拙さはほとんど見られない。

 ラストの蒼井優の表情が素晴らしい。この表情に、映画全体のテーマが込められている。

小梶勝男

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