◆少年と馬による夢のような友情ストーリー(100点)
少年とロバの冒険を描いた劇場用映画『小さなロバ、ビム』(49、日本未公開)でデビューした今は亡きアルベール・ラモリスの監督第二弾作品である本作は、再び少年と動物をメインキャラクターにした物語である。1953年にカンヌ国際映画祭の短編作品賞をはじめ、ジャン・ヴィゴ賞等の数多くの賞を受賞した。日本ではビデオがリリースされたが、既に廃盤となっており、DVDもリリースされていないため“絶滅危惧映像”となっていた。だが、2007年にラモリス監督が本作の四年後に完成させた『赤い風船』(56年度カンヌ国際映画祭短編作品賞受賞)とともにカンヌ国際映画祭に再び出品され、称賛されたことから2008年に両作品のリヴァイバル上映が決定し、二つの名作がスクリーンに甦ることができたのである。しかもデジタルリマスター版として映像が一新されたというオマケ付でのことだ。
舞台はフランス南部のカマルグ地帯の荒地。そこには野生馬の群れが棲息している。群れのリーダーである白い馬のクラン・ブランは、美しい荒馬である。地元の馬飼いたちはこの馬を標的とし、捕獲しようとしていたが、逃げられてばかりであった。この様子を目の当たりにした少年フォルコ(アラン・エムリー=全くの素人)は、白い馬を馬飼い連中から守ろうとしていた。やがて、フォルコと白い馬は心が通い、仲良くなる。だが、再び馬飼いたちによる攻撃が白い馬を追いつめる。
本作の魅力は、芸術写真のように美しい各々のカットが紡ぎ出す詩情に満ち溢れた作風と少年と馬による夢のような友情ストーリーだ。静謐なタッチで一定のテンポを保って描いているが、馬飼いたちの攻撃等はアップテンポで描いている。静と動のバランスを巧く描き分けている。
また、ラモリス監督はこの頃からヘリを駆使して撮影を行っていた。今となっては、後の『赤い風船』や『素晴らしき風船旅行』(60)の予行演習だったかのように思える。簡素化されたストーリーで台詞も極力抑えて映像だけで観る者に内容を理解させ、各場面を印象的に魅せつけようとする姿勢に対しても同じことが言える。
本作では、馬以外の動物としてウサギや亀、少年が飼っている犬や鳥が登場する。中でもフォルコ少年とが捕まえてきた亀と少年の妹が戯れるシーンは、ユーモアとしての面白さを発揮させた描き方となっおり、フォルコ少年が白い馬に跨ってウサギを追いかけるシーンはハラハラドキドキ感をほのかに感じさせ、とても印象深い。そして、これらのカットが最高の芸術写真という感じで仕上がっているため、さらに大きなインパクトを与える。少年と白い馬、馬飼いたち以外のキャラクターをしっかりと描いていることも大きなポイントだと言える。
印象的なシーンばかりで構成された無駄を感じさせないシンプルな出来栄えの本作。ラモリス監督の腕前には、脱帽させられるばかりだ。観る機会が限られた映画史に残る貴重な名作をリヴァイバル上映してくれたことを心から感謝したい。上映時間は40分だから忙しい方も暇な方も気軽に観られること間違いなしだ。36分の『赤い風船』とともに楽しんでいただきたい。
(佐々木貴之)