理想の彼氏 - 町田敦夫

◆年上女は奪わない(70点)

 太平洋のあちらとこちらで時ならぬ“年の差恋愛”ブームが起きている。つい先日、サンドラ・ブロックがライアン・レイノルズを婿にしたと思ったら、TBSでは観月ありさが小池徹平を前におひとりさまの我が身を顧み、NHKでは黒木瞳が向井理をつかまえた。そして今度はキャサリン・ゼタ=ジョーンズが、ジャスティン・バーサ(『ナショナル・トレジャー』シリーズでニコラス・ケイジの手伝いをしていたお調子者ですね)の中に理想の彼氏を見出そうとしている。

 専業主婦だった40歳のサンディは、浮気した夫と別れ、2人の子どもと新生活を開始する。だが前夫への怒りをうまく消化できない上に、久々の会社勤めがうまくいかず、鬱屈は募るばかり。そんな中、16歳年下のベビーシッター、アラムの優しさに触れ、サンディはためらいながらも“恋の現役”に復帰するのだが……。

 軽いタッチながらも、弾けきったコメディにはせず、現実の苦みを適度に残した演出が上々だ。あの年齢の女性としては十分にきれいだが、それなりの“くたびれ感”も感じさせるゼタ=ジョーンズがとてもいい。どん底にあったヒロインが、誠実に人生と向き合ううちに、恋とキャリアの両方を手に入れるサクセスストーリーが根幹。当然、アラフォー女性だけでなく、幅広い世代の共感を呼ぶだろう。ちなみにゼタ=ジョーンズは、実生活では25歳年上のマイケル・ダグラスを“理想の彼氏”に選んでいる。それを思うと、このキャスティング、ちょっとおかしい。

 ところで冒頭に挙げた4作品には、単に“年の差恋愛”を描いた作品というにとどまらない多くの類似点がある。ブロック、黒木、ゼタ=ジョーンズの役年齢がいずれも40歳なのは決して偶然ではないだろう。そのあたりが一般に受け入れられる(と、映画作家が考える)恋愛ドラマの上限なわけですよ。おっと、これはあくまでも「恋愛ドラマの上限」であって、決して「恋愛の上限」ではありません、はい。

 “年の差恋愛”が、同時に“格差恋愛”になっているのも4作品の共通点。それも格上なのは年上女で、年下男は格下だ。『ぼくの美しい人だから』(90)のように、年下のセレブ男が貧乏なオバサンに恋をする物語は、今回のブームにおいては作られていない。さらに言うなら、役柄上の格差はそのまま、演じる俳優の格差と重なってもいる。つまりどの作品も主役が年上女、脇役が年下男であって、その逆ではないんですね。

 どうも映画作家たちは、「年上女(=女性客のアバター)が若い男に恋をする話」なら容認されるが、「年下男(=女性客のバーチャルな恋人)が中年女性に恋をする話」では観客に支持されないと思っている節がある。そしてそれは多分に真実だ。降って湧いたような“年の差恋愛”ブームの陰にそんな冷徹な事実が隠されていることを、もちろん聡明なアラフォー女性たちはとっくに気づいているだろうが。

 上記作品のもうひとつの興味深い共通点は、年下男たちがそろいもそろって草食系であること。彼らが年齢の釣り合った若い女性に興味を示すことはなく、年上女は誰からも奪うことなく年下のイケメン君を手に入れる。そう、ここでも映画作家たちは、若い女性客(=一番のお得意さん)の反発を買うような設定を巧妙に避けているのである。一見、現実離れした当節の“年の差恋愛”ドラマは、実は興業収入や視聴率への配慮というベタベタの現実から生まれた皮肉なファンタジーなのだ。もちろん、それが悪いということではない。本作のように映画としてよくできた作品なら、それで万事OKなのだけれど。

町田敦夫

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