平和的な普通の男が、激しい怒りで変貌していく様子がすさまじい(65点)
司法や警察に頼らず、自らの意志と圧倒的な暴力によって裁きを与える復讐劇を、ヴィジランテ(自警)映画と呼ぶ。“自分のことは自分でカタをつける”という自立自助の精神はアメリカ建国以来の理念だ。それが負の沸点に達した時、法を無視した復讐という形になる。家族と幸せな日々を送るニックは、大切な長男をギャングに殺されるが、裁判では犯人に納得のいく刑罰が与えられないことを知る。ニックは、怒りと悔しさから自らの手で報復するが、彼が殺した犯人はギャングのボスのビリーの弟だった。それはやがて凄惨な暴力の応酬を招いていく。
悪役顔のケビン・ベーコンが被害者を演じるのが面白いが、そこは「ソウ」シリーズの生みの親のジェームズ・ワン監督、ベーコン演じる主人公はそのルックスに似合う、壮絶なバイオレンスの権化と化す。平和的な普通の男が、激しい怒りで変貌していく様子がすさまじい。家族を殺され、自らも重傷を負ったニックがさらなる復讐の鬼と化し、頭を剃り、大量の銃を買い込んで、ギャングのアジトに向かう様は、70年代のアクション映画を見るようだ。暴力の連鎖の果てに、取り返しのつかないことをしてしまったと気付いた時、初めて自分の間違った選択を知るという皮肉が効いている。もっとも、ニックがいきなり銃の達人になったり、ビリーと父親との関係性に疑問が残るなど、物語の展開には強引で荒っぽい面も。いずれにしても暴力を暴力で解決するやり方に答えはない。とはいえ、理性ではこれは間違っていると分かっていても本能で快感を覚えてしまうのは、現実に存在する理不尽な出来事があまりに多いためだろうか。だからこそ観客はヴィジランテ映画の暗い魅力に惹かれるのかもしれない。
(渡まち子)