犯人に告ぐ - 福本次郎

◆警察官としての使命感より、怒りや欲望にがんじがらめに縛られ、手柄や出世・保身といった自己の利益を優先させる。殺人事件の捜査を背景に、警察官キャリア組同士の欺瞞と裏切り、そして組織の腐敗をクールな視点で描く。(80点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 警察官としての使命感より、ドロドロとした怒りや欲望にがんじがらめに縛られる。彼らもまた人間である以上、正義という絵に描いた餅より、手柄や出世・保身といった自己の利益を優先せざるを得ない。殺人事件の捜査を背景に、警察官キャリア組同士の欺瞞と裏切り、そして組織の腐敗をクールな視点で描く。仕事中は彩度を落とし、オフのときはフルカラー、犯罪者の心理という負の感情に向き合わざるを得ない主人公の職業的宿痾を描き分けることで、彼が仕事に対して持つ義務感がより明白に浮かび上がる。

 児童誘拐事件の失態で左遷されていた神奈川県警管理官の巻島は、川崎で起きた連続児童殺人事件の捜査責任者に抜擢される。犯人が女性ニュースキャスターに脅迫状を送りつけてきたことから、巻島は彼女の番組を通じて犯人を挑発する。

 事件そのものや犯人との駆け引きよりも、警察内部での足の引っ張り合いに重点が置かれる。現場を這いずり回り証拠集めをする刑事ではなく、事件を出世の道具としか見ていない警察上層部と巻島の対立。さらにテレビを利用して一躍有名になった巻島に対するライバルの裏工作。犯人だけでなく内部の人間とも戦わなければならない巻島の孤独。人間を疑うことを生業にすると、優秀な頭脳を持っているはずのキャリア官僚ですら性根が腐っていくことをカメラは丹念に追っていく。

 新宿や横浜の雑踏を走り回る巻島を間近で捕らえるカメラワークがすばらしい。街の気遣いと巻島の不安と焦りを見事に再現し、まるで密着ルポのような生々しい映像。現場の刑事が体験する緊張と疲労、犯罪者と対峙するためにそれでも走り続けなければならない。そういった警察官本来の姿をリアルに描くことでこの映画にダイナミックな躍動感を与えている。作品は、捜査や犯人のプロファイリングよりも、警察内部の人間関係に加え報道番組の視聴率合戦という新しい視点がふんだんに盛り込まれて、最後まで目が離せない緊迫感が持続する。原作の味わいを損なわない見事な映画化だった。

福本次郎

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