牛の鈴音 - 佐々木貴之

◆二人の強烈なキャラクターが魅力的(75点)

 40年近く生きている仕事牛と、30年ほど畑で働いてきたチェじいさんの生活を捉えた韓国製ドキュメンタリー作品。本国では口コミによって予想以上の大ヒットを記録し、“牛の鈴音症候群”という社会現象にまでなってしまったとてつもない作品である。

 本作は地味過ぎるドキュメンタリー作品ではあるが、簡単に侮れないほど面白可笑しい作品に仕上がっている。しかも、よくありがちなドキュメンタリー作品とは一線を画す仕上がりとなっている。撮影には固定キャメラを駆使して被写体である老夫婦と牛をじっくりと捉えている。そして、ドキュメンタリーならではのナレーションやインタビュー映像を排除し、BGMも極力使用せずという具合に自然体の作風でドラマ劇のように仕上げている。

 主な登場人物は、チェじいさんと妻イばあさんの二人と一頭の老牛。老牛がとにかくスゴ過ぎる。牛の寿命は約15年にも関わらず、40年近く生きているというミラクルに驚愕させられる。

 次に面白いのは、チェじいさんとイばあさんだ。まずはチェじいさん、とにかくやり過ぎている。牛を可愛がり過ぎなのだ。しかも相当なガンコじいさんでもあるため、拘りも激し過ぎる。牛に対する拘りだけでなく、農業人としてもだ。未だに効率の良い機械や農具を一切使用せず、草刈り一つにしても手作業でわざわざ苦労しているのである。人間としては不器用であるが、じいさんの考えからは、その理由が納得できる。その考え方は良いと思えるが、70後半のおじいさんがこれは本当にやり過ぎだ。挙句の果てには足を怪我し、頭痛が酷いと言い出すが、それでも牛とともに働き続けるのである。そんなチェじいさんに対してイばあさんが不満を連発させ、それでもチェじいさんは意地を張って自身の意見を貫き通す。ここでイばあさんの面白さが発揮され、地味ドキュメンタリーが笑えるコメディードラマに変化していく。イばあさんは、不満ネタ以外でも笑わせてくれるので注目して頂きたい。とにかく本作が面白く仕上がっているのは、奇跡の牛の存在と二人の強烈なキャラクターが魅力的だからと言っても良いだろう。

 他にも田舎町ならではの大自然の活写も味わい深く、芸術的な風格もほんのりと漂わせて好印象だ。また、奇跡の牛が涙を流すというこれまたミラクルなシーンも観られる。

 本作は韓流娯楽映画に引けを取らない面白さを発揮した掘り出し物的傑作だ。単なる地味系ドキュメンタリーの領域を遥かに超越したエンターテイメントと言っても良いほどだ。上映時間は78分と短めだから観易いのがこれまた良い!!

佐々木貴之

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