◆自然体のイメージで本作を表現(75点)
野坂昭如の高名な原作が今から20年前にアニメ映画化され、多くの人々を涙させ、感動させた。その後、2005年には単発TVドラマ化され、そして今回は実写映画として三度目の映像化となった。
1945年6月、神戸全域が空襲に襲われた。これによって病弱の母雪子(松田聖子)を亡くし、出征した父とは音信不通状態となってしまった清太(吉武怜朗)と妹節子(畠山彩奈)は、西宮の縁遠い親戚の家に世話になる。しかし、その家に住む未亡人のおばさん(松坂慶子)による冷たい仕打ちに嫌気がさした二人は、その家を出て二人だけの生活を始めるのだが・・・・・・。
元々は黒木久雄監督がメガホンを取る予定だったが、亡くなってしまったため、黒木監督の教え子に当たる日向寺太郎監督が登板した。日向寺監督は、大ヒットしたアニメ映画を意識してお涙頂戴モノや無理矢理に感動させるような作り方をせず、自然体のイメージで本作を表現した。
戦争をテーマにした本作は、残酷さ、陰惨さ、悲劇と思えるようなシーンでさえも強く全面に押し出さずにソフトなタッチで描いている。これらを強調しない分、大自然を活かしたカットや登場人物のキャラクターの確立といった部分に力を注いでいる。
清太役の吉武怜朗、節子役の畠山彩奈に加え、脇を固める役者の豪華さも話題の一つでもある。二人の母親である雪子役には久々の映画出演となる松田聖子を迎え、優しい母親をそのままのイメージで演じた。次に意地悪おばさん役を松坂慶子が演じ、強烈な悪役としてその力を発揮させ、キャストの中でも一番インパクトが強かった。他にも日本映画界の大御所である原田芳雄に長門裕之に加え、池脇千鶴、江藤潤らが作品に華を添え、それぞれが好演した。
最も有名なアニメ映画のイメージを崩すことなく、違った形で表現された『火垂るの墓』は、少年と幼い妹の生き様を淡々とした雰囲気で描いたドラマに仕上がった
(佐々木貴之)