◆日本語版の出来の悪さを何とかしてほしい(30点)
シネコンで、聴覚障害者と健常者が同時に鑑賞出来るという、日本発のバリアフリー上映が行われると話題の映画。原作は、ドイツの超有名な古典。この作者はミステリも書いていて、一部に根強いファンがいる。
そんなわけで、『エーミール』といえば、ドイツ本国では全員がストーリーを知っているお話だ。この物語は、今でも通用する輝きを持っていると私は思っている。
時代を現代に設定したため、この古典童話には、一部アレンジが加えられている。例えば子供探偵団の面々は、携帯電話やパソコンを駆使してスマートに捜査活動をする。また、原作では脇役だった女の子が、ほとんど主役となって大活躍する。このへん、いかにも現代の映画らしい。
とはいえ、ベルリンの美しい風景には、数世紀も前の建物がたくさん残っているので、舞台が現代に変更されたと言うのに、全く違和感がない。まさにあの原作の世界観を、そのまま映像化したような美しいものである。
ところで、これは、純粋な子供映画という事で、日本では吹き替え版のみが上映される。だが、この吹き替えの出来が悪い。映画自体は、子供向けとはいえ、そんなに悪いものではないと思うのだが、あまりに下手な声のせいで、吹き替え版だとかなり興ざめする。とくに天池真理。
キャスティングしたスタッフによれば、声優には、プロは2人しか使わなかったという事だが、どういう意図にしてもこれは良くない。餅は餅屋ではないが、訓練の必要な特殊技能である声当てを、素人が上手くこなせる例はまれだ。
役を欲しがっている若い声優はいくらでもいる。彼ら、彼女らにチャンスを与えるという意味でも、素人声優(芸能人)の起用に私は反対だ。ましてそのせいで作品のクオリティを落とすなど、あってはならぬこと。
この映画は、カメラがしっかりしているおかげで、とても背景が綺麗。そこが美点だ。こんな町並みになら、こんな素敵なファンタジーもあり得ると思える所がいい。だが、あくまでこれはたわいもない子供映画。見たい方は、小学生の子供さんを連れてどうぞ、といっておこう。
(前田有一)